| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-043  (Poster presentation)

オオバナノエンレイソウにおける分布域の決定要因:生育密度の緯度勾配と気候ニッチ,繁殖成功度,遺伝的多様性

佐々木駿(山形大院・理工), 山岸洋貴(弘前大・白神), 大原雅(北海道大・地球環境), *富松裕(山形大・理)

生物種の分布に関する“abundant center model”(ACM)は、存在量が分布域の中心で最大となり、分布限界に近づくにつれ減少することを予測する。ACMは、分布域がニッチを反映し、分布域の中心に近いほど生育環境の適性が高いことを仮定しているが、同一の生物種を対象とした多角的な実証研究は乏しい。本研究では、北日本の夏緑樹林の林床に生育するオオバナノエンレイソウを対象として、緯度に沿った存在量の地理的変異とその制限要因について検討した。その結果、(1)分布南限である東北地方から北海道稚内市までの緯度に沿った30集団を対象とした調査から、本種の生育密度は中緯度の石狩地方で最も高く、低緯度(東北地方)や高緯度(道北地方)に向かうにつれて低くなるパタンを示すことが明らかになった。(2)気候要因を考慮した生態ニッチモデル(Maxent)から予測された生育地適性は、野外で観察された実際の生育密度と強い正の相関関係を示した。(3)低緯度や高緯度の集団では、幼植物の割合が低いこと、種子重量が小さいこと、低緯度の集団では種子生産量が少ない傾向が見られた。(4)低緯度では個体サイズが小さく、他家受粉処理を施しても種子生産量が増加しなかったことから、一部の集団において種子生産量が少ないのは資源制限によるものと考えられた。(5)低緯度・高緯度いずれの集団でも、集団間他家受粉処理の種子重量が、コントロール処理や集団内他家受粉処理に比べて有意に大きく、集団中に固定した劣性有害遺伝子によって制限されていることが示唆された。(6)遺伝的多様性は低緯度や高緯度の集団で低い傾向が見られ、遺伝的荷重が大きいことと矛盾しなかった。以上の結果から、オオバナノエンレイソウにおける緯度に沿った“abundant-center”のパタンは生育環境の地理的変異を反映しているが、存在量が制限されるプロセスは低緯度と高緯度で異なる可能性が示唆された。


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