| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-060  (Poster presentation)

林床植物イチヤクソウ類の菌根共生系における環境変化に伴う変異

*橋本靖(帯広畜産大環境)

林床で生育するイチヤクソウ類は、比較的暗い環境下で、常緑の葉を持ち地下茎を使ってコロニーを広げて生活する多年生草本植物である。これらの植物は、根系で菌と共生し菌根を作ることが知られ、その菌根菌の種が周囲の優占樹木の菌根菌と共通の種であり、これが林床での生活に有利に働いていると考えられることから、本植物が部分的な菌従属栄養生活を送っている可能性も指摘されている。しかし、これら植物の菌根菌に対する依存の程度や、異なる環境条件下による菌の種の変化など、多くのことが不明なままである。本研究では、ベニバナイチヤクソウ、コイチヤクソウ、コバノイチヤクソウの3種を対象に、これらを森林の樹木から切り離した環境で生育させることで、彼らが周囲の樹木と切り離された場合、どの程度生存が可能で、その際に菌根菌との関係がどのように変化するのかを明らかにした。3種のイチヤクソウ類を土壌ごと採取してポットに移植し、光量を下げた温室内で生育させて、採取直後、約4ヶ月、約10ヶ月後にその根系の一部を採取して、根系の長さ、菌根形成率、菌根の形態タイプを調べ、菌根片からDNAを抽出し、rDNAのITS領域を対象にPCR-RFLP法で種レベルに分け、シーケンスによって菌の種を特定した。その結果、これら3種のイチヤクソウ類は、森林から切り離された条件でも生存するが、その際、細根部が森林環境下と比べて2倍以上に長くなり、菌根形成率は下がる傾向が見られた。また、森林環境下で形成されていた菌根菌の種と、温室環境下で生育させた後の菌根菌の種を比べると、ほぼすべての菌の種が異なっており、樹木から切り離されて菌根菌の種が入れ替わったと考えられた。以上から、イチヤクソウ類は、環境の変化に応じて、根の形態や共生する菌根菌の種類を変えて、周囲の樹木や菌根菌への依存の程度を柔軟に変化させて生活する能力を持っていると考えられた。


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