| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-102  (Poster presentation)

乾燥後の樹木水分生理機能にみられる履歴効果~強度乾燥から1年経過した父島乾性低木林樹木において

*吉村謙一(山形大・農), 山形航大(日大・生物資源), 木村芙久(日大・生物資源), 矢崎健一(森林総研), 才木真太朗(京大・生態研), 丸山温(日大・生物資源), 石田厚(京大・生態研)

小笠原にある乾性矮低木林は国内では珍しく強い乾燥ストレスがかかる森林である。この森林において乾燥下での樹木生理応答を調べることにより、乾燥が森林に及ぼすインパクトを体感することができる。樹木は強い乾燥ストレスがかかると、道管内の水がキャビテーションにより水切れを起こし、これが継続すると枯死する危険性が高まる。一方で降雨等により水分が供給されると通水機能が回復するのではということが指摘されている。樹木枯死は自然条件下では偶発的にしか生じないため、このような生理プロセスと野外での樹木の衰退は直接的に結び付けてこられなかった。
父島は2016年の夏に長期の無降雨期間を経験し、乾性矮低木林の樹木は乾燥による強いインパクトを受けた。2017年夏は逆に頻繁に雨が降っていたためこのような乾燥はみられなかった。そこで、夏の小笠原において乾燥過程とその後の降雨、さらには乾燥ストレスを受けてから1年後といった時間スケールにおいて枝の通水機能がどのように変化するか、またその個体差はどのようになるかについて明らかにした。
乾燥初期には通水欠損に個体差はあまりみられなかったが、最も乾燥する時期には通水欠損の程度は個体によって大きく異なっていた。降雨後および乾燥から1年後には、通水回復する個体と通水回復が遅れて通水欠損が進行する個体の二極化が起こっていた。さらに、このように回復と衰退にはなんらかの分岐点が存在することが示唆された。


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