| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-115  (Poster presentation)

大雪山系における衛星画像を用いたハイマツとチシマザサ分布変化の定量化と将来予測

*雨谷教弘(国環研), 金子正美(酪農大・環境), 工藤岳(北大院・環境), 久保雄広(国環研), 小熊宏之(国環研)

気候変動の影響を受けやすい高山生態系では、急速な植生変化や潅木の分布拡大が生じている。北海道大雪山国立公園においても、気温上昇と雪解けの早期化によって、旭岳西斜面のチシマザサ(以下ササ:森林帯-高山帯550haの解析)と中央部に位置する五色ヶ原のササ・ハイマツ(高山帯50haの解析)が、過去30数年間で分布を顕著に拡大している。
高山帯では生育場所ごとに気象条件(気温、風向き、積雪条件)や微地形(斜面方位、斜度)などの環境要因を反映し、植生がモザイク状に分布しているため、生育場所ごとに異なる分布変化が予想される。ササとハイマツは高山帯で特に大きなバイオマスを有しており、ササは自身の蒸散作用により土壌の乾燥化を加速する作用がありため、一度定着すると、そこから加速度的な拡大を生じることが予想される。
本研究では1977年の航空写真と2017の高解像度衛星画像(WV2)を用い、大雪山系高山帯の複数地点(合計約70km2)において、ササとハイマツの40年間の分布変化の定量化を行った。また、旭岳西斜面と五色ヶ原において、1977年、2009年(五色ヶ原)、2012年(旭岳)の航空写真と2017年の衛星画像から、3時期の分布変化率の差異を求めた。さらに、五色ヶ原でササが拡大しやすい地形の推定と実際の応答を比較した。
解析の結果、ササとハイマツの拡大は全地点で確認された。3時期の変化率は、2012 (2009)-2017年の拡大がより大きかった。ササの拡大は、新規定着よりも既存のクローンパッチの成長による拡大が顕著であった。また、生育期となる6-8月の平均気温は、1977-2009年が10.5度、2010―2017年では11.6度であり、近年1度以上の上昇をしていることが示された。以上のことから、大雪山系におけるササとハイマツの分布拡大は気温上昇と関連しており、その拡大速度はササの環境改変作用により、今後加速的に増加していくと考えられる。


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