| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-136  (Poster presentation)

送粉系における庭の花の機能 —都市景観におけるマルハナバチ群集の採餌パターン—

*中村祥子(森林研究・整備機構, 北海道大学), 工藤岳(北海道大学)

森林と草地が隣接する景観において、移動能力の高い送粉昆虫は、開花フェノロジーを追って、森林と、林外の草地の両方を利用する。近年、都市化に伴い、植栽が管理された都市緑地が増加した。都市緑地には豊富で多様な花が長期間維持され、送粉昆虫にとって新たな林外の採餌場所となっている。しかし、採餌生息地としての都市緑地の機能は十分明らかではない。都市緑地の栽培花種により花資源が増加すると、隣接する自然林内と林外の両方を利用する送粉昆虫の採餌行動が変化するかもしれない。本研究は、都市緑地の生態学的機能の解明を目的とする。宅地の庭の花が利用できる都市景観と、庭がない自然景観の間で、花資源と、主要な送粉昆虫であるマルハナバチの花資源利用パターンを比較した。どちらの景観でも、林内の開花種数は初夏以降減少した。それに対し、林外の開花種数は、どちらの景観でも盛夏から晩夏に最も多く、林内の開花種数低下を補償した。特に都市景観の林外の開花種数は、林内を大きく上回った。マルハナバチ密度と、マルハナバチによる各花種への訪花頻度は、両景観とも林内より林外で高く、林外が好まれた。マルハナバチ密度の林内/林外比を景観間で比べると、都市景観の林外は自然景観の林外に比べ相対的にマルハナバチに好まれていた。林内外の開花種数が林内での訪花頻度に与える効果を調べると、林内の花への訪花頻度は林外の開花種数の季節的増加に伴い低下していた。林外の豊富な花によって、マルハナバチの林内利用が減る可能性が示された。以上より、庭の豊富な栽培花種は、森林内の花資源の季節的低下を補償し、送粉昆虫の重要な採餌資源となることが明らかとなった。一方で、庭の花は林内の花から送粉昆虫を奪い、林内の送粉サービスを低下させる可能性が示唆された。


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