| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-162  (Poster presentation)

クサトベラの種子散布に関わる果実二型の比較トランスクリプトーム解析

*栄村奈緒子(京大・生態研), 内貴章世(琉大熱生圏), 梶田忠(琉大熱生圏), 吉永新(京大院・農), 高部圭司(京大院・農), 本庄三恵(京大・生態研), 工藤洋(京大・生態研)

島に固有の植物種では、海流による種子散布能力をもつ海岸性の祖先種から、内陸へのハビタットシフトに伴う種分化の過程でその能力を失ったと考えられるものが、様々な分類群でみられる。同様の現象は海岸植物のクサトベラでも見られ、砂浜には海流散布能力をもつコルク型の果実を持つものが、海崖ではその能力をもたない果肉型の果実を持つものが多く出現する。クサトベラでは、海流散布が起こりやすい砂浜と、内陸に似た環境である崖の間で進行中の、ハビタットシフトをともなう植物の進化プロセスが、果実の二型に現れていると考えている。また、本種の二型の違いをもたらす分子メカニズムを解明できれば、海岸から内陸へのハビタットシフトにともなう植物の進化プロセスを理解できると期待している。

本研究では、クサトベラの果実の二型をもたらす形態的差異とその遺伝子基盤を理解するために、果実の成熟段階ごとに形態観察とトランスクリプトーム解析を行った。形態観察は光学顕微鏡と紫外線顕微鏡を用いて果皮の細胞形態、およびリグニンの沈着状況を二型間で比較した。トランスクリプトーム解析はRNA-seqを用いて行い、二型間で発現量に違いのある遺伝子の網羅的探索を行った。

形態観察からは、二型の形態分化は開花後25日前後に、コルク型中果皮の細胞壁のリグニン沈着によって生じていた。この時期より若い果実では、顕微鏡レベルの観察で二型間に違いが見られなかった。トランスクリプトーム解析からは、二型の果実は木化に関連するリグニン生合成などの酵素や転写因子の遺伝子発現量が異なることが示された。これらの結果から、木化に関与する遺伝子の発現量の違いが、二型の果実の形態に違いをもたらしていると考えられた。将来的には、本結果の情報を手がかりに果実の二型の原因遺伝子の同定を行い、ハビタットシフトがどのようにして果実形態の二型をもたらしたのか明らかにしたいと考えている。


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