| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-213  (Poster presentation)

日本の人口移動を考慮したHTLV-1の拡散予測に向けて

*伊東啓(東京大学, 長崎大学熱研), 小林志穂美(静岡大学), 守田智(静岡大学)

HTLV-1(Human T-lymphotropic Virus 1; ヒトT細胞白血病ウイルス)は,古来より人類と共存してきたレトロウイルスである.このウイルスに感染すると,数十年という長い潜伏期間の後,極まれにATL(成人T細胞白血病)などを発症し死に至る.現在のところ,一度感染したウイルスの除去方法は無く,ATLを発症すると根治する方法は存在しない.HTLV-1の感染経路は主に性交渉による水平伝搬と,経母乳による垂直伝搬(母子感染)である.日本では九州・沖縄地方の沿岸部などで多くのウイルスキャリアが存在したため,風土病として扱われてきたが,近年は首都圏や主要都市部でも感染の拡大が懸念されている.
本研究では実際の我が国でのHTLV-1キャリア数と,各県の移動(転出・転入)データを使用し,HTLV-1の感染動態をシミュレーションにより再現した.我々の計算では,首都圏を中心としたキャリアの拡大は,感染者の移動によって説明できることが示された.この結果は,これまで一部の地域で風土病として存在してきたHTLV-1が,今後は大都市でも拡散していくことを意味する.本結果は,HTLV-1の感染拡大リスクを予想し,警鐘を鳴らすものである.


日本生態学会