| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-246  (Poster presentation)

世界における洪水規模と人々の移動の関係

*柿沼薫(東京工業大学, Columbia University, NASA GISS), Michael Puma(Columbia University, NASA GISS), 平林由希子(東京大学), 鼎信次郎(東京工業大学)

将来の気候変動が人間社会へ与える影響の評価は、国際社会における早急の課題である。近年特に注目されているのが、気候変動やそれに伴う環境の悪化が、人々の大規模な移動を急速に促す可能性である。しかし、これまでの人々の移動に関する研究では、主に社会・経済的側面が着目され、さらに地域スケールで実施されることが多く、どのような国で気候変動に伴う人々の移動が起こるのか明らかにされていない。本研究では、全球スケールで整備された洪水規模、人々の移動データ、経済指標を利用して、洪水による人々の移動が起こりやすい国や地域の特徴を検証する。
 洪水データは、全球地表水動態モデルから算出された浸水面積を用いて、1960-2013年における各国における浸水面積のアノマリーを利用した。洪水による人々の国内移動については、 Internal Displacement Data Centerが提供する2008-2016年のデータを利用した。経済状況は、世界銀行が提供する各国の国内総生産のデータを用いた。 洪水による人々の国内移動に対する洪水の規模、各国の経済状況の関係を検証するために、一般化線形混合モデルで解析を行った。
 2008年から2016年のあいだ、とくにアフリカ、南・東南アジアの国々では、洪水によって多くの人々が移動していた。統計解析の結果、洪水の規模、洪水規模と経済力の交互作用が検出された。この結果は、大規模な洪水、とくに経済力が低い国で大きな洪水が起きた場合に、人々が多く移動していることを示唆している事が考えられた。経済力が低い国では、洪水への対策が十分に進んでいない可能性があり、その影響を強く受けることが考えられた。また、これらの地域の多くでは、将来の気候変動に伴う洪水頻度の増加が懸念されており、気候変動への対策が重点的に必要であることが示された。


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