| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-251  (Poster presentation)

現在のシカ生息密度の規定要因は何か~激減期の分布域を考慮した検討~

*幸田良介(大阪環農水研), 原口岳(総合地球環境学研究所)

高密度化したシカによる様々な影響が深刻化する中、現在のシカ密度分布を規定する要因として、農地や植林地等の景観構造やシカの捕獲圧の影響を中心に様々な研究が行われてきた。一方で、過去の分布域からの履歴効果については、過去データの欠損ゆえに十分に検証されてこなかった。大阪府ではシカが非常に少なく保護措置が取られていた1985年当時の分布域が広域で調査されている。そこで現在の景観構造や捕獲圧に加えて、過去の分布域の影響を加味した解析を行うことで、シカ密度分布の規定要因としての履歴効果の重要性を検討した。
シカが様々な密度で生息する大阪府北摂地域を対象に、計104ヶ所の調査地をほぼ均等に選定し、糞塊除去法によって各調査地のシカ生息密度を推定した。また、過去の分布情報(1985年・2kmメッシュ;シカの生息の有無)を用い、各調査地が位置するメッシュと隣接メッシュのデータから、各調査地における過去の生息割合をそれぞれ算出した。各調査地周辺の景観構造については、各調査地から半径500mのバッファと環境省植生図を用いてGISで定量評価した。現在の捕獲圧には、各調査地が属する狩猟メッシュでの過去5年間の総捕獲頭数を用いた。
各変数を用いた解析の結果、シカ密度を過去の分布情報と周辺の植林地面積のみで説明するモデルと、さらに捕獲圧を説明変数に加えたモデルが選択された。各変数は全て正の効果を示していたものの、捕獲圧や植林地面積の効果は有意ではなく、過去の分布情報のみが非常に強い関係性を示した。以上のことから、シカ密度分布に対する現在の捕獲圧や景観構造の影響はあまり大きくなく、過去の分布域で増加したシカが周辺部に徐々に分布を拡大した結果として、現在のシカ密度分布がもたらされているものと考えられた。今後はシカ激減期の分布域を規定していた要因を、過去の文献情報から検討していくことが必要であろう。


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