| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-20  (Poster presentation)

自然栽培田は赤とんぼの避難場所になるか?

*大藪愛紗(金沢泉丘高校), 野村進也(金沢大・環日セ), 西川潮(金沢大・環日セ)

過去数十年の近代農業の発展に伴い、水田の生物多様性が減少している。なかでも田園生態系を象徴する赤とんぼ(アカネ属;Sympetrum)は、全国各地で減少したと言われ、その主要因として、農薬の使用と中干しの慣行が指摘されている。石川県羽咋市では、生態系と食の安全に配慮した水稲の自然栽培(無農薬・無肥料栽培)の取り組みが進められている。本研究は、羽咋地域の自然栽培田がアカネ属の避難場所となることを仮説として、これらの羽化数の現状を調査した。
 2017年6月17日から8月5日にかけて、毎週1回、羽咋市と宝達志水町の16筆の水田(自然栽培田8筆、慣行栽培田8筆)でトンボ類の羽化殻調査を行った。各水田の3辺に稲株10条×3列ずつ、計90稲株の調査区を設定し、稲株に付着しているトンボの羽化殻を採取した。
 自然栽培田からは平均11.9個のトンボ類の羽化殻が、慣行栽培田からは平均16.8個の羽化殻が採取された。両栽培田とも、羽化殻の93%以上をアキアカネ(S. frequens)、ナツアカネ(S. darwinianum)、ノシメトンボ(S. infuscatum)といったアカネ属が占めていた。自然栽培田と慣行栽培田間では、採取されたアカネ属の平均羽化殻総数に顕著な差は認められなかったが、アカネ属3種の構成が異なった。自然栽培田ではアキアカネが優占していたのに対し、慣行栽培田ではノシメトンボが優占していた。また、自然栽培田と慣行栽培田ではアカネ属の羽化時期のピークが異なった。慣行栽培田では、6月下旬頃にアカネ属が羽化数のピークを迎えたのに対し、自然栽培田では7月初旬から中旬頃にこれらが羽化数のピークを迎えた。
 以上より、自然栽培田は、羽化時期が遅いアキアカネに対し、避難場所を提供することが示された。しかし、より早い時期に羽化するノシメトンボにとっては、春先の早い時期に水入れされる慣行栽培田が重要な生息場所を提供すると考えられる。最後に、アカネ属の羽化数に及ぼす水田の水管理の影響などについても考察する。


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