| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S06-2  (Presentation in Symposium)

捕食-被食におけるアミノ酸窒素同位体比変化の定量的理解

*後藤(桜井)晶子(金沢大学)

 生物が属する生態系の中でどのような栄養段階に位置しているのかを推定する新たな方法として、生物の体を構成するアミノ酸の持つ安定窒素同位体比の変化(15N濃縮の程度)の解析が注目されている。本発表では、捕食-被食の関係において、捕食者の生体内で15N濃縮が生じる最大の要因であるアミノ酸の脱アミノ化反応を、試薬レベルで模擬した研究について紹介し、そこで見積もられた脱アミノ反応における窒素同位体の分別係数から明らかになった (1) 捕食-被食におけるアミノ酸の15N濃縮の程度と残存率との関係、(2) 生態系のバイオマスを規定する要因、の2つについて考察する。  
 捕食者でみられる15N濃縮の大部分は、アミノ酸からアミノ基を外し、その炭素骨格を中央代謝に導入する反応(脱アミノ反応)において、14Nのアミノ基が15Nのものに比べて僅かに優先的に反応することに起因する。本研究では、捕食-被食間で最大の15N濃縮が観察されているグルタミン酸について、脱アミノ化反応の酵素(グルタミン酸-オキサロ酢酸トランスアミナーゼ:GOT)を作用させ、反応後の残存率と15N濃縮率との関係から、この反応における同位体分別係数を0.9938と見積もった。
 残存率(F)と15N濃縮の程度(Δδ15N)、同位体分別係数(α)は、レイリー分別モデル:Δδ15N≡1000×[F(α–1)–1]において相互に関連づけられる。この式では、同位体分別係数を定数として、15N濃縮の進行は、捕食者内のアミノ酸の残存率の指数関数的減少で説明される。すなわち、0.9938の同位体分別係数は、これまで様々な観察で求められた捕食-被食におけるグルタミン酸の15N濃縮の程度(約8‰)が、被食されたグルタミン酸のうち72%が捕食者体内での代謝に利用され、28%が体組織の構成成分として生体内に残されたことを意味する。発表では、得られた同位体分別係数の解説と、その値から明らかになった生態系のバイオマスを規定する要因についても考察する予定である。


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