| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S07-1  (Presentation in Symposium)

日露中韓の国際共同による,北海道希少種の分類・生物地理研究と保全

*中村剛(北大・FSC・植物園)

北海道では維管束植物の約1/4(511/2,250種)が道レッドリスト(2001)に掲載され,行政は北海道固有種や日本稀産種などを「指定希少野生植物」として24種選定し重点的保全を行っている.しかし,これら指定種をはじめ北海道の絶滅危惧植物には,北方域の近縁種との間に分類学的混乱がある種や,東北アジアに広く分布する種が含まれる.北海道のような国境域の絶滅危惧種の保全を効果的に行うためには,北海道・国内に留まらず近隣国も含めた保全研究が不可欠である.また,絶滅危惧植物が国境を越えて分布する問題は近隣国にも共通の課題である.そのため,我々はロシア,中国,韓国の研究機関と学術協定を結び,フィールド調査の共同実施やABSへの対応など互恵的な「国際共同保全」の体制構築を進めている.
 北海道が国境を接する極東ロシアは,東北アジアの中で日本との分類学的な比較研究が進んでいない地域である.北海道と極東ロシアそれぞれの「固有種」について,相手国の近縁種との分類学的混乱の解消を目指した国際共同研究の取り組みを紹介する.また,絶滅危惧種の地理的遺伝構造の推定と保全単位の決定も,国外の同種あるいは同種の可能性がある近縁種を考慮して行われる必要がある.北海道の絶滅危惧植物について,国内(本州以南)だけでなく,極東ロシア,中国東北部,韓国の同種・近縁種集団も含めて遺伝構造解析を行った結果,環日本海における興味深い生物地理パタンが明らかになり,保全に関して重要な示唆が得られた.これについて,東北アジア大陸部から日本列島へ南北2ルート(極東ロシアから北海道,朝鮮半島から本州)で進入し,分布拡大経路の両端にあたる北海道と本州の集団が進化的重要単位として明瞭に区別される,といった例や,北海道と西日本にそれぞれ分布する絶滅危惧植物2種が,朝鮮半島,東北アジア大陸部の近縁種を介して種複合体を成す例などを紹介する.


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