| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S13-1  (Presentation in Symposium)

日本列島を舞台とした系統地理・系統進化学研究における現状と残された課題

*岩崎貴也(神奈川大・理), 井坂友一(北海道大・FSC)

近年、研究者の増加や次世代シーケンサーをはじめとした遺伝解析技術の向上により、日本列島を舞台とした系統地理・系統進化学研究に関する知見は飛躍的に蓄積されつつある。それらをまとめた総説や著書も次々と発表されており(渡邊ら 2006; 津村・陶山 2015; Tojo et al. 2017; 増田 2017など)、東日本―西日本間や日本海側―太平洋側地域間での遺伝的分化、韓国や極東ロシアなどの近隣地域集団との深い関係、種内の遺伝的分化における生物地理的境界線の再発見など、いくつかの分類群で共通する形での重要な知見も得られつつある。一方、種内の地域集団間あるいは近縁種間での分岐年代推定や、分布の拡大・縮小などのデモグラフィイベントの年代推定については、データは蓄積されつつあるものの、地史イベントとの比較まで含めた総合的考察が順調に進みつつあるとは言い難い。これには2つの要因が考えられる。1つ目は、系統地理・系統進化学研究が対象とする時間スケールが比較的短いことに起因する、年代キャリブレーションのための化石情報の欠如であり、分子系統解析的手法からアプローチする際に大きな問題となる。2つ目は、各生物の分子進化速度や世代時間の不確実性であり、こちらは主にコアレセントシミュレーションによる年代推定の際に問題となる。これらの問題に対しては、RAD-seqやMIG-seqなどで得られるゲノムワイドな大量の変異情報を用いたデータや解析技術の改善でアプローチを続けるのはもちろんとして、地質学からの地史イベントの年代情報などを踏まえることで、推定結果を多方面から評価・検討していく必要があると思われる。遺伝的・地質学的知見を連携させることで、日本列島を舞台とした生物の種分化・分布変遷の歴史をよりクリアに描き出すことが可能になるであろう。シンポジウム冒頭の短い時間ではあるが、本講演ではこれらの点について整理し、続く各講演での議論につなげたい。


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