| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S13-7  (Presentation in Symposium)

ゲノム系統学的手法から浮かび上がる地域固有植物種・個体群の分化史

*奥山雄大(科博・植物園)

分子系統解析の技術が普及し、系統樹は生物進化研究の前提となりつつあるが、依然として、最近の分岐を含む個体群レベルでの詳細な分岐パターンや急速な種多様化を解きほぐすことは容易ではなかった。ところが、超並列シーケンサーでゲノムワイドに巨大な塩基配列データを得ることができるようになったことで、この状況も大きく変わることが期待される。そこで本研究では、分散能力に乏しく、日本列島を中心として著しい種多様化を遂げた2つの系統群、ユキノシタ科チャルメルソウ属チャルメルソウ節およびウマノスズクサ科カンアオイ属カンアオイ節を材料とし、ゲノムワイド塩基配列データの有効性を探った。なお、チャルメルソウ節は種レベルでの系統関係がすでに解明されている系であり、一方カンアオイ節は従来法では系統関係の解明が困難であった系である。ddRAD-seq法を適用した結果、2000遺伝子座以上、計1Mbp以上の系統解析用データセットを得ることに成功した。得られたデータセットを元に系統解析を行ったところ、チャルメルソウ節においては従来明らかになっている種間の系統関係に加え、詳細な地域個体群レベルでの系統関係が、一方のカンアオイ節についてはほぼ全種間の系統関係が高い精度で解明された。これらの系統樹は従来法では到底得られなかったレベルの解像度を誇っており、地質学的な視点と組み合わせることで新たな研究の展開が期待される。例えばこれまで分岐年代推定にはあまり有用ではなかったかなり年代の新しい化石記録や、個体群間の分断の地史的要因等の化石記録以外の情報を用いた分岐年代推定が可能になるかもしれない。


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