| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S16-2  (Presentation in Symposium)

超貧栄養海域におけるプランクトンの役割

*齊藤宏明(東京大学), 橋濱史典(東京海洋大学)

陸上生態系において、植生は主に気温と降水量によって規定され、生態系構造はこれら主要な環境パラメータおよび植生を基盤として形成される。一方、海洋生態系では、生態系構造および生産力は、栄養塩濃度が主要な規定要因である。栄養塩が豊富な沿岸域や湧昇域では珪藻を中心とした大型の単細胞性藻類(植物プランクトン)が優占し、生産力が高い。珪藻により生産された有機物は、短い食段階で食物網高次の生物に転送され、魚類や海産鳥類・哺乳類などの高次捕食者もまた豊富である。一方、亜熱帯域では、栄養塩が枯渇し、小型の藍藻類が優占している。その生産は、小型の生物間で何段階にもわたって転送される過程で、呼吸により発散されて、高次捕食者は少ない。しかしながら、太平洋亜熱帯海域等、従来法では栄養塩濃度が検出限界以下の超貧栄養海域では、生元素の存在形態については不明な点が多かった。我々は、従来法よりも数十倍高感度の長光路分光分析技術により、超貧栄養海域の生元素濃度を存在形態(溶存無機態、溶存有機体、粒状無機態、生物を含む粒状有機態)別に明らかにすることに成功した。その結果、亜寒帯海域では生元素は主に栄養塩(溶存無機態)として存在するが、超貧栄養の亜熱帯太平洋においては、主に生物として存在していることが明らかとなった。これら生物は、呼吸や排泄により、一度粒状化した生元素を再び栄養塩として体の外に放出することから、亜熱帯海域では、生物が生元素のリザーバーとして、また供給源として重要な働きをしていると考えられる。発表では、陸上生態系における栄養塩供給元としての土壌と樹木の役割と、海洋生態系における海水と生物の役割を比較して議論する。


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