| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S16-5  (Presentation in Symposium)

密度効果と水産資源管理‐MSY概念の変遷‐

*市野川桃子(中央水研)

海洋生態系が我々にもたらす恵みの一つとして,食卓を彩る様々な魚介類がある.鮪・鯖・秋刀魚・鯵・鱈など,季節折々の魚介類を楽しめるのは海洋生態系が健全に機能している証拠でもある.この恵みを我々がこれからも・どのくらい享受できるかという問題は,実は非常に基本的な個体群生態学の理論の応用にかかっている.それは個体群の増殖率に影響を与える「密度効果」である.
生物の個体の増加率は個体群の密度に依存して変化し,特に密度が高くなるほど増加率が小さくなる(密度効果の密度依存性).水産資源の管理ではこの密度効果の存在を前提にし,個体群全体としての増加率=持続的な生産量が最大(MSY, Maximum Sustainable Yield, 最大持続生産量)となるような資源量に資源を維持することが世界的な水産資源管理の目的とされている.しかし,MSYの概念を現実の水産資源に適用して管理するにあたっては,かつて国内外で多くの批判・論争がおこった.結果として,日本国内における水産資源の管理目標においてMSYの概念は本来の意味を失い,形骸化された.
しかし近年,シミュレーション技術の向上・順応的管理や予防的管理との組み合わせ・海外におけるMSY概念の見直し等の要因により,我が国の水産資源管理においてもMSY概念を基本的な管理目標とした管理に舵を切る流れが生まれている.本発表では,MSY概念に対してかつてどのような批判があったのか,近年ではそれに対してどのような解決策が提案されているのか,どうすれば日本の水産資源の管理にMSY概念を応用できるのか,をテーマに話題提供する.


日本生態学会