| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T01-5  (Presentation in Organized Session)

経路データから海鳥のナビゲーション能力を明らかにする:バイオロギングにおける逆問題アプローチ

*後藤佑介(東京大学大気海洋研)

飛んだり泳ぐ動物の移動は、絶えず風や海流の影響を受ける。彼らが遠く離れた目的地へ辿りつく際に、風や海流に対してどのように応答しているかは動物のナビゲーション能力を知る上で非常に重要である。しかし動物の空気や水に対する速度ベクトル(対気速度ベクトル)と風や海流の速度ベクトルを高解像度かつ広範囲の時空間で直接計測することが困難なため、流れに対する動物のナビゲーションは以前多くの謎に包まれている。一方で近年の動物のトラッキング技術の発展により多くの種の移動経路のデータが集められるようになった。本発表では、鳥のGPS経路データから経路上の風と鳥の対気速度ベクトルを推定する新しい統計手法を紹介する。推定を可能にするカギは鳥の経路データから対地速度ベクトル(地面に対する速度ベクトル)を計算すると、その分布が平均ベクトルの周りで非対称になることを利用する点である。この手法をオオミズナギドリとワタリアホウドリという2種の海鳥の経路に適用し、風と鳥の対気速度ベクトルを推定した。海鳥の経路から推定した風向・風速は、気象衛星が観測したより時空間解像度の粗い風向・風速と正の相関を示した。次に推定された風と対気速度ベクトルから、帰巣中の海鳥の風に対する応答を調べたところ、オオミズナギドリは岸から離れた海上であっても、進路が横風によって目的方向から逸れないように、横風の強さと向きに応じて対気速度ベクトルの向きを調整していることがわかった。またワタリアホウドリについてはあえて追い風を避けて100kmスケールのジグザグ帰巣をしていることがわかった。これらの結果は、これまで検証が難しかった海上での鳥のナビゲーション能力と風への応答を明らかにすると同時に、近年急増しているバイオロギングデータに統計モデルを適用することで、動物を取り巻く環境とそれに対する動物の応答に関する情報を推定可能にする逆問題型アプローチの可能性を示すものである。


日本生態学会