| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T10-5  (Presentation in Organized Session)

枯死木を利用する生物群集が森林生態系食物網に与える影響:50年前の風倒地を例に

*鈴木智之(東大), 角田智詞(iDiv), 杉浦大輔(名古屋大), 兵藤不二夫(岡山大), 深澤遊(東北大), 中森泰三(横国大), 金子信博(横国大)

 枯死木は、森林生態系における主要な炭素プールのひとつである。そのため、微生物を始め多くの生物が枯死木を消費し、それらの生物もまた他の生物によって消費される。このような枯死木を起点とする食物連鎖は他の炭素プールを起点とする食物連鎖と複雑に絡み合う食物網を形成する。しかし、枯死木を起点とする食物連鎖が森林生態系の食物網全体にどのように寄与し、その構造に影響を与えるかはほとんど調べられていない。本発表では、1959年の伊勢湾台風によって生じた大規模な風倒地において、風倒後に倒木の搬出がされた場所(除去区)とされなかった場所(残置区)の食物網を調べることで、枯死木およびそれを利用する生物群集が森林生態系の食物網に与える影響について報告する。
 脂肪酸および安定同位体比による食性解析の結果、捕食者層であるクモ形類(クモ・ザトウムシ)は除去区と残置区で基盤となる餌資源が異なることが示された。特に、脂肪酸において、残置区の地表性のクモや地表近くの造網性のクモにおいて、バクテリア由来の脂肪酸の割合が多かったことから、倒木の量がバクテリア由来のエネルギーの流れ(bacterial channel)に影響することが示唆された。このことは、残置区に多い腐朽の進んだ枯死木の脂肪酸組成において真菌:バクテリアマーカー比が低かったこととも一致する。光誘引型のトラップでは、残置区では除去区に比べ双翅目の個体割合が多かったことから、双翅目昆虫が枯死木中の微生物を餌資源として利用し、この双翅目がクモ形類に消費されたことが示唆された。これらの結果は、枯死木を利用する生物群集が森林生態系の食物網にも一定以上の影響を与えることを示す。


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