| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T13-1  (Presentation in Organized Session)

農法転換は駆動因になりるか?ー小さな小さな山里の有機農業の実態調査から

*嶺田拓也((国研)農研機構)

農耕は自然生態系への意図的な働きかけと定義することができる。愛知県S市の蛇紋岩基質で表土の薄い山腹傾斜地に展開する面積約1haのF農園では,自然生態系からの圧力が高いと考えられる中山間地で,先代が畜産を営んできた際の遺産である自生牧草を利用し,帰農以来,自然生態系への管理強度をできるだけ高めないような栽培体系へと農法を転換し,30年以上,有機栽培体系を維持してきた。F農園を事例として,小さな山里で生物多様性を活かした有機栽培体系を持続しうる駆動因について考察する。
F農園の畑地や果樹園での管理体系は,越年一年草のイタリアンライグラスを基軸とした自然草生・不耕起である。イタリアンライグラスは,自然更新にて秋に発芽し冬期を迎える前に旺盛に繁茂し,他の越年草の生育を抑制するとともに,初夏以降リビングマルチやマルチとして夏雑草の発生を抑制する。イタリアングラスの存在は,外部からの投入エネルギーやコストを最小とし,遷移の進行も抑制しつつ生産性の管理に貢献する駆動因になっていた。また,M農園では湧水利用の水田耕作のほか,山間傾斜地の特徴を活かし園内に自生する山菜やキノコの山取りなど,約200種類もの産物を少量多品目販売する空間・資源利用型の経営を実現している。1)農園は自宅を中心に一カ所にまとまっていること,2)複雑な地形に合わせて環境条件の異なる複数の管理ユニットが設けられていること,3)遊休地や樹木帯などさまざまなランドスケープが混在していること,が多様な空間と生物多様性を利用する小さな里山の有機農業を支える駆動因となっていた。さらに,小規模養鶏による肥料自給や鶏卵による収入基盤,週1回の朝市への出店や直配を可能とする約30分距離にある35万人都市の存在,地域への愛着,帰農前に食品会社で研究開発に従事してきた経歴に基づく科学的リテラシー,などが持続的経営を支える駆動因と考えられた。


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