| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T13-3  (Presentation in Organized Session)

多様な生物種は駆動因になりうるか?-西南日本の現場でウンカシヘンチュウから大型鳥類までを吟味する

*日鷹一雅(愛媛大・院・農学)

Agroecology(農生態学)は、当初から生態学を科学的基盤に置きつつも、超学際、新経験主義(津野 1975)、多様なステークホルダーによる参加型行動を重視して、より持続可能な農業とそれを支える食の問題にも踏み込んだ包括的な方向修正について喚起してきた(日鷹 2011)。例えば、近年では世界農業遺産の認定基準(武内 2017)の中には、農業システムや地域社会の持続可能性を付与する構造(モノ)と機能(コト)として、農生物多様性、伝統知によるレジリエントな農業、小農重視、担い手育成、コモンズなどの諸項目の中に農生態学の概念・原理・実践(アルティエリら, 2015)が応用されている。農生態学は、研究・教育・アクションの三つの総合的推進を重要視するが、そのドライバー(駆動因)になりうる多様なモノ・コトについて基礎的に吟味し、適切なフィードバックをかけることは重要である。本講演では、とくに、農業と密接に関連した生物多様性の構造や機能、農業生物多様性(agro-biodiversity)について吟味したい。多様な生物種の中から適切にアグロエコロジカル・ドライバーになりうる様な農生物多様性の実体を見出し、それを持続可能な農林水産業に結び付けることは容易ではない。ここでは演者がアグロエコロジーに出会ってからの33年間に関わった持続可能な農業の実現の駆動因になりうる生物種の候補種について、これまで農業の実際的な持続的管理に結び付くような因果関係が見い出せる分類群の研究事例を取り上げ、持続的農業システムの駆動因になりうる生物選定の在り方について考察する。実際の駆動因になりうるには、個体群、群集、生態系の選定が社会に採用されなければならない一方、仮に採用されても継続・展開したときに思わぬ問題点が生じ、放棄されてしまうこともある。地域の農業システムの持続可能性のためにどのような種群や生態系を社会が選ぶかは、科学的に反証可能なシステムを適応的に管理することが肝要である。よって駆動因の管理しやすさも重要だろう。


日本生態学会