| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T17-3  (Presentation in Organized Session)

ダムによるシリカトラップと、それが流下先海域の珪藻生態系に影響を与える可能性

*原島省(国際環境研究協会)

 アスワンハイダムの例にみられるように、大ダムによって栄養塩の流下が妨げられ、下流の沿岸域での一次生産量-漁獲量を低下させる可能性がある。さらに栄養塩の内訳を考えると、人為影響で窒素(N)の負荷は増えるのに対し、ケイ素(Si)の補給は自然の風化作用で補給されるので上限がある。このためSi:N相対比が低下し、海域でケイ藻(Siを殻材とし、良好な生態系の基盤となる)がそれ以外の微細藻類(Siは不要、有害な渦鞭毛藻類を含む)に対して不利になる可能性がある(シリカ欠損仮説)。Humborg (1997)はドナウ川ダム建設と黒海沿岸域の渦鞭毛藻増加の関連をこの仮説で説明した。
 この仮説の検証として、我々は琵琶湖を大ダム湖と想定してその上・下流で栄養塩のデータを取り、流入するSiの7~8割が琵琶湖でトラップされることを確認した。また、瀬戸内海域のフェリーにより、1990年代~2000年代前半に栄養塩の時空間観測を行った。その結果、春季ブルーム後にNとSiが主にケイ藻に吸収されるため減少すること、さらに、ブルーム終了時にNとSiのどちらが残るかを時系列的に追うと、1990年以降はSi残留(N不足)が増加する傾向を確認した。このトレンドを過去に補外すると、1970年代にはN残留(Si枯渇)と推測され、春~初夏にかけてケイ藻以外の藻類が優位になる条件が形成されていたことが想定され、当時の有害赤潮多発の一因となっていたことが考えられる。我が国にとって高度経済成長は過去のものとなったが、今後それを経験する地域で同様の海域生態系変質が起こる可能性を注視する必要がある。


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