| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


第6回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞記念講演

都市化時代の保全生態学 ー自然体験の消失スパイラルー

曽我 昌史(東京大学大学院農学生命科学研究科)

21世紀 ー それは紛れもなく「都市の時代」である。現在、都市の面積や人口はかつてない勢いで増えており、2050年には世界人口の約7割に相当する63億人が都市に住むことが予想されている。都市は、我々の生活・産業・文化を支える重要な場所であり、人類の発展に大きく貢献してきたことは言うまでもない。しかしその一方で、こうした急速な都市化は、生態系の劣化や人の生活環境の悪化など新たな課題も生み出した。

長い生態学の歴史を振り返ると、都市生態学(人が優占する都市生態系の動態を扱う生態学)は決して主流な学術分野ではなかった。都市には、生態学者が心躍るような珍しい生き物が沢山いるわけではなく、生態系そのものが人の影響を色濃く受けているため、無意識のうちに研究対象から外されていたのかもしれない。しかし、こうした流れは最近大きく変わりつつあり、都市生態学は「保全」や「持続性」といった観点から注目され始めている。

都市生態学が注目されるようになった背景には、大きく二つの理由がある。一つは、都市が従来考えられてきたよりも高い生物多様性保全機能を持つことが分かってきた点である。そもそも都市は、温暖で肥沃な場所に集中して造られるため、多くの生物の生息地と空間的に重なりやすい。そのため、都市の生物多様性を保全することは、都市だけではなく、より広いスケールでの生物多様性保全に貢献するだろう。

二つ目の理由としては、人と自然との関わり合いが、人の健康・福利、また生態系保全の観点から見て重要な意味を持つことが分かってきたことが挙げられる。昨今の急速な都市化やライフスタイルの変化に伴い、人々が日常生活で自然と触れ合う機会は減少の一途をたどっている。こうした現代社会における人と自然との関わり合いの衰退は「経験の消失」と呼ばれ、人の健康上の問題はもとより、環境保全上深刻な負の影響をもたらすことが懸念されている。そのため、世界人口の大部分が住む都市において、人と自然との関わり合いの動態や意味を理解することは、両者の持続的な関係の構築を考える上で極めて重要である。

こうした背景を踏まえ、私はこれまでに、都市における生物多様性保全、ならびに人と自然との関わり合いに関する基盤・応用的研究を行ってきた。本講演では、私の一連の研究を紹介し、都市における生態系の在り方や今後の都市生態学の方向性について議論したい。


日本生態学会