| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) A03-06  (Oral presentation)

海産の卵寄託魚では宿主の種類やサイズの違いが産卵管形態の種内変異を生み出す 【B】
Host use generates intraspecific variations in ovipositor morphology of marine fishes that oviposit into tunicates or sponges 【B】

*安房田智司(大阪市立大学), 五十嵐直(新潟大学), 瓜生知史(マリンライフナビ), 古屋康則(岐阜大学), 宗原弘幸(北海道大学)
*Satoshi AWATA(Osaka City University), Nao Igarashi(Niigata University), Tomonobu Uryu(Marine Life Navigation), Yasunori Koya(Gifu University), Hiroyuki Munehara(Hokkaido University)

 淡水魚類や昆虫の一部の種類では,他の生物に卵を預ける「卵寄託」という珍しい行動が知られている.寄生者にとって産卵の成功は子の生存や親の適応度に大きく関係するため,繁殖に関わる様々な行動・形態形質の適応が起こると考えられる.しかし,卵寄託を行う寄生者と産みつけられる宿主との相互作用が生み出す形質の進化についての研究は少なく,不明な点が多い.
 海産のカジカ科魚類には,無脊椎動物の体内を産卵場所として利用する卵寄託種が知られる.近年の演者らの研究により,卵寄託カジカの複数種がホヤ類やカイメン類に卵を寄託すること,また,雌のカジカが持つ産卵管の長さは,ホヤを利用する種の方がカイメンを利用する種よりも長く,利用する宿主の種類やサイズに応じて産卵管長が適応進化したことが分かってきた.卵寄託カジカは本州全域に広く生息するため,生息海域によって利用するホヤやカイメンの種組成やサイズが異なると予測される.しかし,同種内で産卵管形態が海域によって異なるかについての情報は皆無である.
 そこで,太平洋側と日本海側の両方に生息する卵寄託カジカ3種の宿主選択と産卵管長について,野外調査とDNA分析により調べた.その結果,伊豆のオビアナハゼはザラカイメンを,佐渡のオビアナハゼはリッテルボヤを利用していることがわかり,産卵管の長さや形態も大きく異なっていた.さらに,アナハゼとアヤアナハゼは,それぞれリッテルボヤとカイメン類を利用した点で宿主選択の地域差はなかったが,いずれの種も伊豆の方が産卵管長は長く,利用する宿主のサイズの違いとの相関が示唆された.以上のように,種間だけでなく種内でも宿主の種類やサイズに応じた産卵管形態の変異が示された.こうした例は,他の卵寄託動物でもほとんど知られておらず,海産魚では初めての発見であると考えられる.


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