| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) C01-10  (Oral presentation)

テンプライソギンチャクの共生に起因するノリカイメンの突起状構造の形成
Formation of projection-like structures on homoscleromorph sponge due to the symbiosis of edwardsiid sea anemone, Tempuractis rinkai

*泉貴人(東京大学大学院, 国立科学博物館), 森滝丈也(鳥羽水族館), 伊勢優史(マレーシア科学大学), 藤田敏彦(国立科学博物館, 東京大学大学院)
*Takato IZUMI(Univ. Tokyo, NSMT), Takeya MORITAKI(Toba Aquarium), Yuji ISE(Univ. Sains Malaysia), Toshihiko FUJITA(NSMT, Univ. Tokyo)

テンプライソギンチャクTempuractis rinkai Izumi, Ise, and Yanagi, 2018は、その和名の通り、体壁がノリカイメン属の1種Oscarella sp.によって衣のように覆われており、カイメン1個体の内部に多数の個体が生息している。本種は、その特有の刺胞の構成や、カイメンの中という特異な生息場所を基に新属新種として記載され、また、宿主のノリカイメンの1種は未記載種である可能性が高い。
テンプライソギンチャクの表皮とノリカイメンの1種の上皮は密着しており、両者の組織を容易に剥がすことはできない。透過型電子顕微鏡を用いて境界を観察すると、イソギンチャクの表皮には繊毛が互いに撚り合わさった糸状の突起が散在しており、カイメンの上皮には概ねその位置に対応した窪みが存在することがわかった。このような構造によって、両者の密着が保たれていると推測される。
テンプライソギンチャクの共生するカイメンを水槽内で飼育したところ、テンプライソギンチャクは反口側を横分裂させることにより、無性生殖を行うことが観察された。分裂個体は蠕虫状に変化し、匍匐移動することによりカイメンの下部に潜り込み、カイメンの体を貫通して上部の表面に現れるという行動をとる。その後、イソギンチャクの周囲が少しずつカイメンに覆われてゆき、数日後にはイソギンチャクを取り囲んだカイメンの突起状構造が形成された。イソギンチャク類において、蠕虫状に変化して基質上を匍匐移動する前例はなく、貴重な観察事例となる。
自然下では、テンプライソギンチャクは単独で見つかったことはなく、ノリカイメンの1種も単独で見つかることは稀である。このことから、両者は強い共生関係にあることが予想される。テンプライソギンチャクはカイメンに身を隠すことで、捕食者から保護されている可能性がある。ノリカイメンの1種は、イソギンチャクの刺胞によって、ノリカイメン類の天敵として知られるシロフシエラガイからの捕食から保護されていると推察される。


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