| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-05  (Oral presentation)

佐渡島において再導入トキはどのくらい稲踏みにより被害を与えているのか?
How much do  reintroduced crested ibises damage rice plants by tramping down them in Sado Island?

*永田尚志(新潟大学・朱鷺自然セ), 中津弘(新潟大学・朱鷺自然セ), 油田照秋(山階鳥類研究所)
*Hisashi NAGATA(Niigata Univ.、CTER), Hiromu Nakatsu(Niigata Univ.、CTER), Teruaki Yuta(Yamashina Inst. Ornith.)

再導入開始から10年が経過し、佐渡島におけるトキの個体数は順調に増加し、現在350羽弱が生息している。トキの生息数が増えるにしたがってトキによる稲踏みを懸念する農家も増えている。また、トキが営巣場所と採餌のため利用する水田の関係を明らかにするために、2017-2018年の繁殖期に、国中平野に500mのセンサスルートを16本設置し、隔週で計46回、トキの採餌位置を記録した。また、トキの稲踏みの影響評価のため、2017年、2018年にトキの足型模型を用いて実験的に稲を踏みつけ、その後の生存、生長、収量を調べた。実験は、田植え後1週目、2週目、3週目、4週目に稲株をトキの足型模型で踏みつけ、その後の株の生存率、生長、収量を計測した。2017年にはトキの体重の約2倍の3kgの負荷を、2018年には体重と等倍の1.5kgの負荷をかけた。稲刈り後に、実験株の米粒数(結実数)と重量から1株あたり収穫量を調べた。実験株の近傍20株を無処理区として対照株にすると同時に、2018年には実験による枯死株の隣接株の収量を測定した。営巣林からの距離が離れるにしたがってトキの観察頻度は指数的に減少し、田植え直後の5月から6月にかけて、水田での水田内での観察頻度は2.18±0.48個体/10ha/時に過ぎなかった。トキの稲株の踏みつけ頻度は、平均0.57±0.051株/分(n=264)であった。田植え後2週目までの処理区では生存率が対照区より低く、収量も低い傾向が見られた。しかし、3週目以降の処理区と対照区間で有意な差はなかった。また、枯死株の周囲の隣接株では収量が約1.3倍に増加していた。このため、数株が踏まれた程度では、隣接株の収量増加により枯死株の収量の損失は相殺され、全体として収量も上回る可能性もあると考えられた。このため、田植え後2週間以内の水田にトキが入らないようにすることで稲踏みの被害は軽減できると考えられる。


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