| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) I03-08  (Oral presentation)

植物標本からの非破壊DNA抽出:生態学研究への博物館標本の利用促進
Non-destructive DNA extraction from plant specimens for its application to ecological research

*杉田典正(国立科学博物館), 海老原淳(国立科学博物館), 細矢剛(国立科学博物館), 神保宇嗣(国立科学博物館), 兼子伸吾(福島大学), 中江雅典(国立科学博物館), 遊川知久(国立科学博物館)
*Norimasa SUGITA(NSMT), Atsushi Ebihara(NSMT), Tsuyoshi Hosoya(NSMT), Utsugi Jinbo(NSMT), Shingo Kaneko(Fukushima Univ.), Masanori Nakae(NSMT), Tomohisa Yukawa(NSMT)

近年、生物標本の遺伝情報が生物多様性の研究や保全に活用されている。植物の一般的なDNA抽出法は、植物体の一部を粉砕する手順を含む。したがって葉の数が少ない小型植物などでは、DNA抽出による植物体の部分欠損により標本の価値を大きく損なう。本研究の目的は、植物標本から非破壊的にDNA抽出する方法を開発することである。昆虫標本から非破壊的にDNA抽出する手法を応用し、プロテイナーゼKとドデシル硫酸ナトリウムを含む緩衝溶液を用いて、PCR可能なDNAを非破壊的に抽出できるか検証した(ここで非破壊的とは、植物標本を破いたり欠損させないこととする)。検証には、ヤクシマヒメアリドオシランなど14種の小型植物の押し葉標本を使用した。植物のDNAバーコーディング用プライマー(matK及びrbcL遺伝子の一部領域)を用いて、抽出DNAのPCR増幅とDNA配列の読み取りを実行した。はじめに緩衝液を標本の葉上に30分間乗せる方法を試した(実験1)。実験1ではmatKで80%とrbcLで53.8%の標本からターゲットのDNA配列を得た。すべての標本で葉の損傷は無かったものの一部の種で葉の変色を伴った。次に実験1の手法が適さない植物に対し、標本の損傷を最低限にとどめる代替方法を検討した。標本の一部を切り取り上記の緩衝溶液に20℃で30分間浸けた後、再乾燥させて押し葉標本に復元し、標本台紙に戻した(実験2)。実験2ではmatKで53.8%とrbcLで92.8%の標本からターゲットのDNA配列が得られた。実験1と実験2を組み合わせるとmatKで80%とrbcLで92.8%の植物標本からDNA配列の解読に成功した。通常のDNA抽出キットではPCR可能なDNA溶液を得られない一部の植物でもDNA配列の解読に成功した。今回新しく提案するDNA抽出法は、植物標本の形態情報を保持したままDNA分析を可能にすることで博物館標本の利用促進に貢献するともに、短時間・低コストのDNA抽出法としても利用が期待される。


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