| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) K02-07  (Oral presentation)

多雪地域の風穴地における蘚類オオサナダゴケとハサナダゴケの分布と環境要因
Relationship between distribution and environment of Plagiothecium neckeroideum and P. denticulatum (Musci) in the wind holes in the deep-snow area.

*白崎仁(新潟薬科大学)
*Hitoshi SHIRASAKI(NUPALS)

蘚類オオサナダゴケ(Plagiothecium neckeroideum)とハサナダゴケ(P. denticulatum)は、新潟と長野の県境で、国内屈指の多雪地域とされる秋山郷の風穴地に生育する。多雪地域の特殊な環境では、どのような要因によって両種の分布に違いが現れるのか?両種の分布限定要因の違いについては、極めて興味深い。風穴地は、急崖に火山岩が堆積し、冬季の凍結地下水のため雪解け後に冷気が岩の隙間から出て、暖気に触れて結露する。そのため、長期間低温と多湿が続く特殊な環境である。多雪地域では、11月から翌年の5月まで多量の積雪で覆われ、生育期間は6〜10月までの約5ヶ月に短縮される。
 両種の分布地におけるAMeDASのメッシュ気候値による気温、最深積雪深、夏季(7〜8月合計)と冬季の降水量(12〜3月合計)、8月の可能蒸発散量の要因に対する分布頻度を算出し、それらの環境要因と分布の関連性を調べた。微環境要因を比較するため、両種の生育する7ヶ所の風穴地の内外の気温(6〜10月)の変化を温度ロガーで測定した。
 オオサナダゴケは無性芽をよく形成するが、新潟県では、垂直分布の下限に当たる津南町見倉風穴地700mだけに生育し、上限は長野県栄村野反湖1710mで、この地点では胞子体が形成されて、正常な生活史である。本種は風穴地に限られ、その立地の環境は、暖かさの指数が比較的低く40-60、冬季の降水量が3500mm以下である。しかし、風穴地の気温は比較的高い10℃以上が生育に適している。すなわち、風穴地における本種の生育には10℃以上で生育期間が比較的長い条件が必要である。他方、ハサナダゴケは県境の山岳地域に比較的広く分布し、下限は阿賀町カタガリ山風穴地440m、上限は火打山2430mで、胞子体をよく形成する。本種は、風穴地の立地では暖かさの指数が60-75、冬季の降水量が4000mm以上のところに偏り、生育期間中の気温が10℃以下で、5ヶ月程度の比較的短い生育期間で生育すると考えられる。


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