| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) L01-01  (Oral presentation)

繁殖的形質置換が導くヤモリの異所的個体群間の繁殖形質の分化
Differentiation of reproductive traits between allopatric populations driven by reproductive character displacement in geckos

*城野哲平, 戸田守(琉球大学)
*Teppei JONO, Mamoru TODA(Univ. Ryukyus)

ヤモリ属は島嶼域で特に著しく多様化しており,複数種が共存する島と一種のみが生息する島が入り混じったモザイク状の分布様式を示す.複数種が同所分布する個体群では,誤って他種に対して繁殖行動を行うことによって適応度が下がるコストが存在する.同種の形質を正しく認識し選択する個体がより有利となるため,種をより見分けられるようメスの種認識能力とオスの種認識シグナルの両方が進化的に変化する(繁殖的形質置換)と考えられる.このような局所的な繁殖的形質置換の結果として,他種と同所的である個体群と異所的である個体群との間に種認識形質の分化が生じ,種内の個体群間における生殖隔離の成立を推し進める可能性がある.ヤモリ属で種間の繁殖的形質置換が,種内で生殖隔離を成立させている可能性を検証するため,沖縄諸島のミナミヤモリ(以下,ミナミ)個体群のうち,オキナワヤモリ(以下,オキナワ)と同所分布する島のオスによる求愛コールを,単独分布している島のものと比較した.その結果,パルス間間隔のみオキナワと同所的な島で有意に短く,オキナワとより異なる方向へ変化していた.メスに対するプレイバック実験の結果,他種と同所分布するミナミとオキナワ,単独分布のミナミはすべて他種オスの求愛コールに比べて同種のものを有意に選好した.さらに他種と同所分布するミナミは,単独分布の同種オスの求愛コールに比べて自個体群のものを,自個体群の求愛コールでもよりパルス間間隔の短い鳴き声を有意に選好した.一方で単独分布するミナミでは,個体群間の鳴き声の違いと,自個体群オスの鳴き声のパルス間間隔の違いに対して選好性を示さなかった.これらの結果は,ミナミで同所分布する近縁種を避ける方向に繁殖的形質置換が生じ,それによって種内の他個体群との間に生殖隔離が成立しうる一方で,近縁種から隔離された集団では種認識の厳密さが緩むことを示唆する.


日本生態学会