| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


シンポジウム ME01-3  (Presentation in Symposium)

生態学と分子生物学の接点としてのミジンコ
Daphnia molecular biology towards ecology

*渡邉肇(大阪大学)
*Hajime Watanabe(Osaka Univ.)

生態学ということばが最初に定義されたのが1867年とされているが、それに先んじる1857年にミジンコの単為生殖に関する論文がダーウィンをコミュニケーターとしてロンドンの王立協会に提出されている。以来、ミジンコからは単為生殖と有性生殖の切り替えによる生殖戦略、カイロモンによる物理的防御や日周鉛直移動をはじめとする生存戦略などさまざまな興味深い現象が報告されてきている。
例えばミジンコの生殖戦略の切り替えにおいては、エサの減少と個体密度の上昇によりオスを産むことが知られている。このオスが有性生殖をすることにより生じた耐久卵は発生途中で停止し長期間の乾燥などに耐え、一定条件が満たされると発生を再開する。こうした一連の現象は生存戦略からは非常に理にかなっているように見えるものの、その実態は何が担っているのであろうか、150年も前に報告された興味深い現象1つをとっても非常最近になるまで、分子生物学的なアプローチがなされず、遺伝子や分子レベルでの理解は全く進んでいなかった。
我々はミジンコ遺伝子の網羅的な解析をはじめとして遺伝子編集にいたるまで、一連の情報の取得と技術開発を行ってきた。これらをもとにオス産生を誘導するホルモンやオス産生に必須のマスター遺伝子を同定し、その制御にノンコーディングRNAが関与していることなどを明らかにしてきた。また個体密度上昇を検知する実態の解析も進めており、長きにわたり不明だった分子的基盤がようやく明らかになりつつある。
一方で現在までに作製した変異を導入したミジンコにおいて、産子と成長のバランスが異なったものを見出している。こうした遺伝子は、個体群動態に影響を与える可能性もあり、DNA-タンパク質―細胞―器官―個体という従来の分子生物学の範疇をさらに超えて個体群までを遺伝子から説明できる可能性を示しており、個体群の研究でも長い歴史を持つミジンコは格好のモデルとなることが期待される。


日本生態学会