| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-042  (Poster presentation)

渓流沿い放棄水田の実態を探る
Introduction to present situation at abandoned paddy field along mountain stream

*高村紀行, 川窪伸光(岐阜大学)
*Kikou Takamura, Nobumitsu Kawakubo(Gifu Univ.)

かつて山深い渓流沿いに作られた水田.そして現在では放棄水田となった地は,どのように分布し,どのような植物が生育しているのか?これまでに,平野地帯の放棄水田での植物相は数多く研究されてきた.ところが,山間部の森林化した放棄水田においての研究報告は少なく,その実態は明らかではない.さらに現在では,水田は放棄後,現地図に記載がなくなり,また周辺植生との境界が不明瞭になり,衛星画像からは,かつての水田の場所はほとんど分からない.そこで本研究では,岐阜県揖斐郡揖斐川町小津地区下辻谷を対象に,現地調査によって渓流沿いに作られた放棄水田の分布状況と,そこでの現状植物相の解明を目的とした.
放棄水田の分布状況は,簡易測量によって,放棄水田一区画ごとに位置を明らかにし,現在の状態を記録した.植物相は,放棄水田とそれに通じる林道を歩き,目視できる範囲の植物種を採取・記録した.あわせて,集落住民に聞取りを行ない,水田が放棄された時期と原因を特定した.また放棄水田にみられたスギ植林に注目し,毎木調査により,放棄水田にスギが植林された時期をも調査した.
分布調査の結果,渓流沿い放棄水田は,多くが渓流に沿って一列に分布し,また上流部の奥地では幾筋にも分かれた渓流に挟まれるように階段状に広がって分布していた.放棄水田の計76区画中,スギ植林区画は48,ヒノキ植林区画は1,植生遷移していた区画は27であった.同定できた植物種は,計85科189種で,植生遷移していた多くの放棄水田内にはイワヒメワラビ・ダンドボロギク・チカラシバが優占し草原を形成していた.住民への聞取りによると,約30年前の豪雨による水害時に水田を一斉放棄したことから,放棄時期は全て同一であることが分かった.一方,毎木調査の結果から,放棄後のスギ植林時期は全て同じではなく,異なると考えられた.


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