| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-125  (Poster presentation)

ブナにおける葉フェノロジーの集団間・集団内変異と集団遺伝構造
Inter- and intra- population variations in leaf phenology in relations to population genetic structure of Fagus crenata

*杉本咲, 石田清(弘前大学)
*Saki Sugimoto, Kiyoshi Ishida(Hirosaki Univ.)

樹木の自然集団における葉フェノロジーの集団間・集団内の変異の程度やその要因についての知見は蓄積されていない。環境適応に関わる形質の遺伝的変異は、集団内の遺伝的変異が大きいほど環境変動時の進化速度が速くなることから、種内の遺伝的変異とその生成機構の解明は地球温暖化に対する該当種の長期的な応答の予測に貢献する。本研究では、多雪山地で優占するブナを対象として葉フェノロジーにおける遺伝的変異の実態を明らかにするため、集団遺伝構造と葉フェノロジーの集団間・集団内変異との関係を分析した。
 調査地は青森県八甲田連峰において、南部の山腹斜面に標高が異なる3地点を、東部の盆地に晩霜頻度の異なる4地点を設置し、葉フェノロジーの観察と核マイクロサテライトマーカー8遺伝子座を用いた遺伝分析を行った。その結果、標高が異なる3集団では標高が高いほど、盆地では晩霜頻度の高い中心部に近づくほど開芽積算温量(開葉に要する積算温量)が大きくなる傾向が認められた。7集団の系統関係を分析すると、標高の異なる3集団については開芽積算温量の傾度に対応した系統関係が認められなかった一方で、盆地の4集団については開芽積算温量の傾度と同様に、外縁部から中心部に向かって離れるほど集団間の系統関係が遠くなる傾向が認められた。各集団間の遺伝距離と開葉日距離(集団間の開葉日の差異)との関係については有意な相関が認められなかった。一方で、盆地の集団内には明瞭な個体間の遺伝的変異が認められた。そこで、外縁部・辺縁部・中心部の3集団の各個体について盆地外縁部の集団からの遺伝距離と開葉日との関係を分析した結果、有意な正の相関が認められた。以上の結果より、盆地の集団にみられる開葉日の集団間・集団内変異の傾向は集団遺伝構造を反映しているといえる。遺伝構造と開葉日の関係を検出できなかった標高の異なる3集団については、更なる検証が必要である。


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