| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-159  (Poster presentation)

鳥取県東部瀬戸川におけるバイカモのパッチ動態と開花結実状況
Patch dynamics and flowering pattern of Ranunculus nipponicus in Sedo River in the eastern area of Tottori Prefecture

*松浦生, 笠木哲也(公立鳥取環境大学)
*Ikuru MATSUURA, Tetsuya KASAGI(Tottori Univ. of ES)

 キンポウゲ科バイカモ(Ranunculus nipponicus)は、流水中にパッチ状に生育する沈水性の多年草で、西日本では、水路、湧水などの人為的影響を受けやすい小規模水域に局所的に分布する。
 バイカモは主に、地下茎による栄養成長および切れ藻による栄養繁殖によって、無性的に個体群を維持していると考えられている。一方で、花柄を水上に立ち上げて開花し(水上花)、花形態から虫媒による有性繁殖も可能と考えられるが、水路などの個体群では、水流によって花が水中に沈み(水没花)、送受粉が不可能と考えられる状況が確認され、有性繁殖には大きなリスクを抱えていることが想定される。
 本研究では、人工河川に人為的に導入されたバイカモ群落における個体群維持の実態を把握することを目的に、鳥取県東部瀬戸川のバイカモ個体群で、栄養成長・繁殖によるパッチ動態と開花結実状況について調査を行った。
 本調査地におけるバイカモは、地下茎によるパッチの維持・拡大と、切れ藻による新規パッチの加入によって、個々のパッチは不安定であるが、全体のパッチ面積は維持されていた。パッチ面積の維持には、水深、流速、光環境、河床粒径分布といった環境要因が影響することが示唆された。しかし、2018年6、7月には、豪雨による増水と、その後の水門閉鎖による人為的な渇水によって、パッチ数が著しく減少した。人工河川に人為的に導入されたバイカモは、高い無性繁殖力によって攪乱頻度の高い環境に適応してきたと考えられるが、小規模な個体群では、攪乱によって一気に消滅するリスクがある。また、2017年には1日に最大で14,000花以上の開花が確認されたが、結果数はわずか4個で、種子繁殖は著しく失敗していた。開花の90%以上が水没花であることに加えて、個体群サイズに起因する遺伝的多様度の低下によって、有性繁殖は有効に機能しないものと推測された。


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