| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-181  (Poster presentation)

カナダに生育するクロトウヒにおける伸長成長と肥大成長の関係
Relation between elongation growth and radial growth of Picea mariana in Canada

*田邊智子, 檀浦正子, 大澤晃(京都大学)
*Tomoko TANABE, Masako Dannnoura, Akira Osawa(Kyoto Univ.)

樹木は、頂端分裂組織で行う伸長成長と、形成層で行う肥大成長を繰り返して成長する。後者の経年変動は長らく樹木成長量解析の指標とされてきた。一方ヨーロッパアカマツでは、幹の肥大成長と伸長成長は気候的な制限要因が異なり、双方の成長にタイムラグが生じていたことが報告されている。成長様式の異なる伸長成長と肥大成長は制限要因が異なる可能性があるが、定量的に検証した事例はない。そこで本研究では、幹の伸長成長(SE)と肥大成長(SR)、枝の伸長成長(BE)と肥大成長(BR)の経年変動を計測し、各成長の制限要因および相互関係を明らかにすることを目的とした。林冠の開いたカナダの成熟林において、クロトウヒの成木10個体を対象とした。SEとBEは節間長を10年以上計測した。SRは胸高の年輪幅を、BRは一次枝基部の年輪幅を計測した。BEとBRについては、分岐していないすべての一次枝の計測を行い、それらの平均値を解析に用いた。
各成長の個体間同調性を供試10個体の総当りで検証した結果、全45組のうち、SRは30組、BEは33組で有意な正の相関が確認され、SEは8組のみで有意な正の相関が確認された。すなわち、幹の肥大成長と枝の伸長成長は林分内のすべての個体に共通する環境要因の影響を強く受け、幹の伸長成長は各個体の生理的要因や微地形の影響を強く受けている可能性が示唆された。各成長の相互関係について個体ごとに検討した結果、SRとSEに相互関係やタイムラグは検出されなかった。SRは前年と当年のBEと有意な正の相関が検出された。SEとBEは3個体で有意な正の相関が認められた。これらから、幹において伸長成長と肥大成長は制限要因が異なり、また幹の肥大成長は、前年と当年の枝の伸長成長の影響を強く受けていることが明らかになった。さらに、幹と枝の伸長成長に強い同調性が検出されなかったことから、成長様式が同じでも、幹と枝とでは制限要因が異なる可能性も示唆された。


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