| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-188  (Poster presentation)

熱帯落葉樹チークにおける散水実験終了後の葉の炭素安定同位体比の変動
The carbon isotope composition of leaves in a tropical deciduous tree (Tectona grandis) during / after the irrigation experiment

*田宮早緒里(三重大学), 松尾奈緒子(三重大学), 吉藤奈津子(森林総研), 鎌倉真依(京都大学), 田中延亮(東京大学), 田中克典(グリッド)
*Saori TAMIYA(Mie Univ.), Naoko Matsuo(Mie Univ.), Natsuko Yoshifuji(FFPRI), Mai Kamakura(Kyoto Univ.), Nobuaki Tanaka(The Univ. of Tokyo), Katsunori Tanaka(GRID)

タイ北部の落葉性チーク林では,雨季・乾季の時期が年々変動し,それに対応してチークの着葉期間も変動することが報告されている.同チーク林において散水実験を行った結果,チークの展葉は土壌水分の上昇によって開始し,落葉は土壌水分の低下によって促進されることが示された.このように,土壌水分がチークの着葉のフェノロジーに及ぼす影響は明らかにされてきたが,光合成・蒸散特性に及ぼす影響については情報が不足している.そこで本研究では,上述の散水実験中および終了後の4年間にわたり,散水木2個体と自然条件下の対照木2個体において、水利用効率の指標である葉の炭素安定同位体比(δ13C)と光合成能力の指標である葉の窒素含量の測定を行った.また散水実験中に散水木と対照木の個葉の光飽和時の光合成速度と気孔コンダクタンスの日変化の測定を6回行った.上述の散水は,乾季と雨季それぞれ2回含む2年間,14日間の積算降水量が14mm以下或いは土壌体積含水率が14%以下の場合に実施した.
散水実験中の葉のδ13Cは散水木の方が対照木よりも低かったことから,散水によって内的水利用効率が低下したことが示唆された.散水木は対照木と比較して個葉の光飽和時の気孔コンダクタンスは同程度であったのに対し,光合成速度が低かった.また窒素量(Narea)も散水木の方が低かった.これらのことから,土壌湿潤条件におかれたチークでは,気孔の反応は変化しないが葉内窒素量が減少することによって光合成速度が低下しその結果として内的水利用効率が低下した可能性が示唆された.散水木は実験終了後である3年目以降には土壌乾燥を経験したが,その葉のδ13Cは対照木よりも低いままであり,内的水利用効率が低いことがわかった.一方,散水木のNareaは実験終了後に緩やかに上昇していたことから,Nareaの土壌乾燥への応答には長時間を要することが示唆された.


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