| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-199  (Poster presentation)

なぜシロオビドクガは雌雄で色彩が異なるのか:性によって擬態の対象が異なる可能性 【B】
Sexually different mimicry in the lymantriid moth Numenes albofascia? 【B】

*矢崎英盛, 林文男(首都大・生命)
*Hidemori Yazaki, Fumio Hayashi(TMU, Biology)

 警告色が介在する擬態は多くの昆虫で知られている。それらを雌雄に分けて理論的に再検討してみると、4つのパターンが存在する。このうち、(1) 雌雄とも同一モデル種に擬態する例(アサギマダラに擬態するカバシタアゲハなど)と(2) 雌のみが擬態する例(カバマダラに擬態するメスアカムラサキなど)は広く知られているが、(3) 雄のみが擬態する例、(4) 雌雄がそれぞれ別のモデル種に擬態する例についてはまったく研究されていない。警告色と擬態には、ベイツ型擬態(無毒の種が有毒の種に似る)とミュラー型擬態(有毒の種どうしが類似する)の2つが存在し、上記の4つのパターンの中でもこれら2つの擬態の判別を行う必要がある。
 日本に生息するシロオビドクガは、オスはホタルガに、メスはジョウザンヒトリおよびヒトリガに成虫の斑紋が酷似し、両者の成虫出現時期(初夏と初秋)は一致する。そのため、(4) の可能性がある珍しい例と考えられ、雌雄の斑紋の著しい性的二型は性選択ではなく擬態によって進化した可能性が高い。
 そこで、まず、ヒガシニホントカゲを用いた捕食実験を行い、シロオビドクガは捕食者に対して毒性がないこと、モデル種と考えられるホタルガ・ヒトリガには毒性があり忌避することが明らかになった。つまり、両者にはベイツ型擬態が成立していると考えられる。次に、それぞれの種のアクトグラムを比較した結果、シロオビドクガは雌雄とも夜行性、モデル種と考えられるホタルガは雌雄とも昼行性、ジョウザンヒトリおよびヒトリガは雌雄とも夜行性であることがわかった。シロオビドクガの雄におけるモデル種との活動の日周性のずれは、配偶行動上の制約のあらわれである可能性が示唆された。今後、鳥やトカゲを用いた斑紋の学習実験を行う一方、東南アジアにかけて生息するシロオビドクガ属全種(斑紋に性差がある種とない種を含む)の分子系統樹上での斑紋の進化パターンを明らかにしていきたい。


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