| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-219  (Poster presentation)

ブナ林に生息する Dorcus 属クワガタムシ類2種のハビタット選好性と遺伝構造の比較
Comparison of habitat preferences and genetic structures of two stag beetles (Dorcus montivagus and Dorcus rubrofemoratus) inhaiting beech forests

*上木岳, 東城幸治(信州大学)
*Gaku UEKI, Koji TOJO(Shinshu Univ.)

本研究では、ブナ林に依存して生息する「ハビタット・スペシャリスト種」のヒメオオクワガタ Dorcus montivagusと、その近縁種でありながら低山地からブナ林まで幅広く生息する「ハビタット・ジェネラリスト種」のアカアシクワガタ Dorcus rubrofemoratusに焦点を当てた。氷期-間氷期サイクル等の気候変動におけるブナ林の分布変遷と両種の遺伝構造の関係性を比較するとともに、両種のハビタット選好性を解明することで、ヒメオオクワガタがブナ林にのみ生息する要因解明に迫る。両種のミトコンドリア遺伝子の配列データに基づく系統解析の結果から、ヒメオオクワガタはそれぞれ単系統群を示す(1)東北地方から中国地方にかけての本州全域と四国の集団、および(2)九州地方の集団から構成されることが明らかになった。一方、アカアシクワガタでは東北地方から九州地方にかけて、特に大きな遺伝的分化もなく、全体として単系統群を示した。加えて、ヒメオオクワガタの生態ニッチモデル解析の結果からは最終氷期最寒冷期(LGM)には新潟県以南の日本海側沿岸部と九州地方内陸部に分布縮小したことが示唆され、推定されるブナのレフュジアと概ね一致した。これらの結果から、最終氷期後の温暖化に伴い本州と四国のヒメオオクワガタ集団はブナと共に分布拡大できたものの、ブナが高標高域へ移動した九州では、分布が孤立したと推察される。一方、より低地に生息することが可能なアカアシクワガタは積極的に移動分散した可能性が高い。本研究から、両種の遺伝構造の違いはブナ林への依存度の差を反映したものであることが示唆された。さらに、両種成虫の樹液選好性の調査結果からは、ヒメオオクワガタの方がアカアシクワガタよりも多様な樹種を散在的に利用することが明らかとなった。これらの結果から、両種が共存する地域では、標高以外にも空間的なハビタット配置などの種間相互作用も深く関与することが明らかとなった。


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