| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-260  (Poster presentation)

都市緑地の心理的回復機能を規定する生態的・社会的要因の解明
Ecological and social factors determining psychological restorative functions of urban greenspace

*石橋颯己, 吉田薫, 曽我昌史(東大院・農)
*Soki ISHIBASHI, Kaoru Yoshida, Masashi Soga(Tokyo Univ.)

近年、健康・福利面から、都市緑地がもたらす心理的便益に大きな注目が集まっている。しかし、そうした便益を規定する生態的・社会的要因についてはほとんど分かっていない。本研究では、東京都における複数の都市公園を対象に、来訪者が得る心理的回復特性(以下、回復特性)に、来訪者の個人属性と公園内の景観・環境条件が及ぼす影響を解明することを目的とした。
調査は、東京都練馬区・杉並区にある27箇所の都市公園(大規模な総合公園から小規模な街区公園までを含む)で行った。2018年秋季に木本の植生調査と景観調査、来訪者へのアンケート調査(n=567)を行い、公園の景観要因と木本の種多様性、来訪者の個人属性と回復特性に関する情報を得た。また、公園来訪者による公園内の木本種数の認知の正確性(以下、認知正確性)も同時に調査した。解析では、まずパス解析を用い、公園・来訪者の属性に関する9つの要因が回復特性に与える直接効果と間接効果(認知正確性を介した効果)を調べた。次に薄板平滑化スプラインを用い、個別の景観要因・個人属性の組み合わせに対して回復特性がどのように反応するかを等高線図として描いた。
パス解析の結果、個人属性(年齢、性別など)が回復特性に及ぼす直接効果が検出された。一方で、公園の属性では来訪者の認知正確性を介した間接効果がみられた。平滑化スプライン解析の結果、個人属性と景観属性が回復特性に与える影響の間には交互作用的な効果(公園面積と来訪者の自然への意識の間、公園面積と1週間あたり滞在時間の間など)があり、両者の間の複雑な関係性が示された。今回の結果によって、公園の属性と来訪者の属性はそれぞれ異なる経路を経由して公園来訪者の心理的便益に影響することが示唆された。そのため、今後、都市緑地が持つ心理的便益を向上させるためには、景観への配慮のみならず、来訪者の層も意識した公園計画や公園利用を行っていくことが望ましいだろう。


日本生態学会