| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-289  (Poster presentation)

礫浜潮間帯に生息するミミズハゼ属2種の食性に関する研究
The diets of two species of the genus Luciogobius in gravelly beach

*近藤香澄, 加藤真(京都大学)
*Kasumi KONDO, Makoto KATO(Kyoto Univ.)

日本列島の海岸線には礫浜が多い。列島の急峻な地形と豊富な降雨が多くの円礫を海に供給したばかりでなく、海食崖から崩落した岩礫も波に洗われて円礫の堆積を形成したからである。ハゼ科ミミズハゼ属(Luciogobius)は、体の著しい伸長や脊椎骨数の増加などによって、このような潮間帯の礫間隙で適応放散した魚類である。礫間隙性のミミズハゼ類はほとんどが日本固有種であるが、日本列島の礫浜でなぜこれほどの多様化が起こったのだろうか。この適応放散の仕組みの解明をめざして、(1)ミミズハゼ類の食性、(2)潜在的な餌であると想定される礫間隙生物の群集構造、(3)ミミズハゼの採餌行動について、調査・観察を行った。調査場所は和歌山県白浜町の礫浜潮間帯、対象種はナガミミズハゼ(Luciogobius elongatus)とオオミミズハゼ(L. grandis)である。2月、6月、10月の大潮の昼夜の干潮時に、上記2種を採集して胃内容物を分析するとともに、礫間隙生物群集の分析も行った。その結果、両種ともに、餌のほとんどがソコミジンコ類やヨコエビ類、コツブムシ類などの礫間隙生物で占められていることが明らかになった。それぞれの餌の個体数組成はハビタットの礫間隙生物群集の組成に類似していたが、ナガミミズハゼは特にソコミジンコ類を、オオミミズハゼは特にコツブムシ類を選好して採餌していた。餌組成を体積組成で評価すると、両種とも間隙性コツブムシ類を重要な餌資源としていると考えられた。また、ガラスビーズを充填した水槽での魚の飼育によって、礫間隙での採餌行動や、ミミズハゼ種間の捕食や干渉が観察された。これらの結果は、ミミズハゼ類の種間に、礫環境への選好性や餌への選好性、種間の直接的干渉などを通したニッチ分割が見られ、それがミミズハゼ類の適応放散に深く関わった可能性を示唆している。


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