| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-315  (Poster presentation)

遊水地における送粉者群集の把握とソバへの送粉貢献度の評価
Evaluation of pollinator communities and contribution to buckwheat pollination in flood control basin

*小倉祐太郎(東邦大学), 下野綾子(東邦大学), 須田真一(中央大学)
*Yutaro Ogura(Toho University), Ayako Shimono(Toho University), Shin-ichi Suda(Chuo University)

 人類は生物多様性を基盤とした生態系から様々なサービスを享受している。特に、植物と動物の生物間相互作用である「送粉」は最も重要な生態系サービスの一つとされている。これまでの送粉サービスを評価した研究では、特定の作物とその花粉媒介種に着目したものが主であったが、大多数の花粉媒介種は野生種であり、それらは作物だけでなく野生植物からも餌資源を得ている。植物種間には送粉昆虫を介した相互作用網が築かれ、地域の植物群集が間接的に作物の送粉サービスに貢献している。このような間接効果に着目した研究は少ないが、送粉サービスの安定性を考えるうえで、送粉共生系における多種対多種の相互作用網の理解は重要である。本研究を行った静岡県静岡市では低湿地生態系の保全が行われ、供給される生態系サービスの持続的利用に取り組んでいる場所である。
 本研究では、多様な花粉媒介者に支えられている低湿地の送粉サービスを評価することを目的とし、生態系から供給される花粉媒介者の種類や量の定量化、また花粉媒介を介して人間社会がサービスとして受益する量として作物(ソバ)の収量の定量化を行い、加えて、ソバの花粉媒介者を支える他の花資源の間接効果を評価した。
 ソバの結実率調査及び訪花昆虫調査の結果、昆虫の送粉により8~18%程度の結実、16~36%程度の受粉成功が観察された。ソバの訪花昆虫の67.9%がハエ目であり、そのうち38.0%のハエ目は幼虫期に水中で生活する種であったことから、湿地依存性の種がソバの送粉を担っていると考えられる。ソバは3年間で65種中52種の植物と36.5%の訪花昆虫を共有しており、ソバと同時期に咲く植物との間で間接効果が高くなる傾向がみられた。ソバの非開花期に咲く植物でも26%~52%の種と間接効果が観察され、季節を通じて供給される花資源が訪花昆虫の餌資源の供給に寄与していることが示唆された。


日本生態学会