| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-326  (Poster presentation)

スズタケ一斉枯死地における哺乳類が林床植生と節足動物相に与える影響:枯死1年後
Effects of mammals on forest floor vegetation and arthropod community in the Sasa borealis mass-death site: one year after the death

*鈴木華実, 梶村恒(名古屋大学)
*Hanami Suzuki, Hisashi Kajimura(Nagoya Univ.)

 日本の多くの林床では、ササ類が優占しており、様々な植物や動物との間で相互作用が生じている。ササ類の1生に1度の一斉開花・結実・枯死は、森林の一大イベントであり、生育地の種間相互作用に大きな影響を与えるものと予想される。これまで、ニホンジカ (以下、シカ) による影響を調べた研究等はあったが、相互作用を明示した例はほとんどない。本研究では、2017年に発生した120年ぶりとされるスズタケの一斉結実・枯死地の林床植生の更新状況を2018年から追跡すると共に、シカやネズミ類等の哺乳類や地上性節足動物の生息状況を調べた。特に、哺乳類の移動を制限する3種類の網状の囲いを組み合わせ、植生更新との間の相互作用の実証を試みた。
 スズタケは落果翌年の8月下旬から発芽することが明らかになった。発芽数は場所により大きな差がみられたが、日射量、推定種子供給量との間に相関が無かった。このため、スズタケ自体の穂・稈・個体間で種実稔性に大きな差があったことが推測された。発芽後の実生はシカやネズミ類に採食されず、全ての哺乳類を排除した調査区で、節足動物によると思われる実生の軸の切断が発見され、主な死亡要因となっていた。また、スズタケの落葉に伴って林床が明るくなったが、堅果種子はほとんど発芽しなかった。地上性節足動物の個体数、分類群構成、多様度には、調査区間で大きな違いがなかった。この結果は、スズタケ一斉枯死1年後の林床環境は調査区間でほぼ同様であることに起因していると示唆された。ネズミ類の捕獲調査では、前年のスズタケ一斉結実による餌の増加と、周辺からの移入によると考えられるアカネズミの大幅な個体数増加がみられた。対照的にヒメネズミは、アカネズミほどの個体数変動を示さなかった。さらに、センサーカメラ撮影数に基づけば、シカの出現頻度は少なかった。シカの餌になるスズタケ葉が激減したこと、当年実生は摂食しないことが理由と考えられた。


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