| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-360  (Poster presentation)

シカの高密度化はマダニを減らす?-生態系エンジニアと外部寄生者が形成する相互作用-
Does high density of deer decrease tick density?; Interaction between an ecosystem engineer and an ectoparasite

*松山紘之(東京大学), 揚妻直樹(北海道大学), 岡田あゆみ(北里大学), 鈴木牧(東京大学)
*Hiroyuki Matsuyama(The University of  Tokyo), Naoki Agetsuma(Hokkaido University), Ayumi Okada(Kitasato University), Maki Suzuki(The University of  Tokyo)

マダニ類は全種が哺乳類,鳥類や爬虫類に吸血する外部寄生者であり,マダニ媒介性疾患と呼ばれる様々な人畜共通感染症を媒介する。マダニ類の生育段階は幼虫,若虫,成虫の三段階から構成され,各1回の吸血のみで次の生育段階へ移行する。野生動物の中でもシカは大型の宿主であり,その密度はマダニの生息密度と正の相関を示すことが報告されている。そのため,シカの高密度化はマダニ類の密度を高めると考えられる。一方,シカの高密度化はマダニ類の未寄生期間における生息地である植生を衰退させ,マダニ密度を低減させる間接効果を及ぼす可能性がある。しかし,そのような効果の存在は先行研究では示されてこなかった。本研究は,シカの高密度化が下層植生を介してマダニ密度に及ぼす間接効果を明らかにすることを試みた。調査は2018年5月に,北海道大学苫小牧研究林のシカ密度操作実験区で実施した。この実験区は3種類の囲い柵から成り,14年間シカを囲い込んで高密度状態を保っている「高密度区」(約25頭/㎞²),シカを12年囲い込んだ後,シカを排除した「高密度化後排除区」,12年以上シカが排除されている「排除区」から構成される。このような異なる環境条件を利用することで,シカ密度やシカによる採食の影響がマダニ密度へ影響する要因を特定することが期待できる。各区画と区画外において,マダニ類の採取と併せて植生調査,宿主動物の特定を行い,宿主密度と植生高がマダニ密度に与える影響を検討した。その結果,幼虫と若虫の密度に対して,植生を介したシカの間接効果の存在が示唆された。ただし,間接効果の強度はシカが宿主として与える直接効果に比べて小さかった。また,その間接効果の強度は,若虫より幼虫の方が高い可能性も示唆された。


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