| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-362  (Poster presentation)

岩礁潮間帯のヤドカリ群集に対する海洋酸性化の影響 【B】
The Effect of Ocean Acidification on hermit crabs 【B】

*戸祭森彦, 今孝悦(筑波大学)
*Morihiko TOMATSURI, Koetsu Kon(University of Tsukuba)

 海洋への二酸化炭素の過剰な溶け込みは、海洋酸性化と呼ばれる環境問題を引き起こす。この現象は石灰化を阻害するため、将来的にサンゴや貝類などの石灰化生物の個体数や多様性の減少を招くことが予見されている。先行研究により、甲殻類に対する海洋酸性化の影響は隠微であると予測されている。しかし、甲殻類の一種であるヤドカリ類は腹足類の貝殻を必須資源として利用するため、海洋酸性化の間接的な影響を受けうる。本研究は、海底から二酸化炭素が噴出し、周辺海域が酸性化している特異な海域を利用して、海洋酸性化が腹足類の貝殻を介してヤドカリ類に与える影響を検証した。
東京都式根島に存在する酸性化海域と非酸性化海域の岩礁潮間帯において、ヤドカリ個体数と利用可能な貝殻量、およびそれらの種組成を海域間で比較した。その結果、ヤドカリ個体数と利用可能な貝殻量は酸性化海域で減少し、ヤドカリ種組成は海域間で異なっていた。ヤドカリ個体数の減少は、貝殻量の減少を介した海洋酸性化の間接的影響であることが示唆される一方で、ヤドカリ種組成の変化は貝殻種組成から説明できず、海洋酸性化の直接効果の可能性が予見された。そこで、海洋酸性化の直接効果を検証するため、両海域に優占していたホンヤドカリと、酸性化海域で個体数を減じていたイソヨコバサミを用い、酸性化海水と通常海水で飼育した際の成体および幼生の生残率を比較した。その結果、飼育海水間で成体の生残率に有意差は認められなかったが、イソヨコバサミ幼生の生残率は酸性化海水下で有意に低下した。従って、ヤドカリ種組成の改変は、酸性化海水による種特異的な直接効果に起因することが示唆された。
以上により、海洋酸性化は、貝殻の減少を介して間接的にヤドカリ個体数を減じ、また、種特異的に幼生の生残率を直接減少させることが明らかとなった。


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