| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-366  (Poster presentation)

肉の腐敗にどう抗うか?ー微生物への対抗ともう1つの戦略ー
How to utilize rotting meat?: Resistance to microbes and another strategy

*橋詰茜(日大・生物資源), 山中康如(日大・生物資源), 笠原康裕(北大・低温研), 大舘智志(北大・低温研), 幸田良介(大阪・環農水研), 中島啓裕(日大・生物資源)
*Akane Hashizume(Nihon University), Yasuyuki Yamanaka(Nihon University), Yasuhiro Kasahara(Hokkaido University), Satoshi Ohdachi(Hokkaido University), Ryosuke Koda(RIEAF, Osaka), Yoshihiro Nakashima(Nihon University)

動物遺体は,様々な生物によって利用されており,それら利用者の種構成も時間とともに大きく変化することが明らかにされている.しかし,こうした遺体利用者による「遷移」がどのような生態学的メカニズムによって駆動されているのかは明らかではない.従来の研究は,初期の訪問者による資源利用が後続の訪問者による利用効率を向上するというfacilitationの結果であると考えてきたが,近年の研究によって否定されつつある.そこで本研究では,2016年から2018年にかけて北海道八雲町の森林に,有害駆除されたアライグマの遺体を計83体設置し,「どのような脊椎動物種及び昆虫種が遺体を利用しているのか」,「これらの利用種がどの段階の遺体を利用しているのか」を詳細に観察,動物遺体における遷移のメカニズムを明らかにした.この結果,様々な動物種が遺体を訪問していること,そのタイミングは種によって異なっていることが分かった.遺体の大部分は数日のうちにハエ類(主にホホグロオビキンバエ)の幼虫(ウジ)によって消費された.その後ハネカクシやエンマムシのような甲虫類(22属)が訪問した.しかし,これらの後続の甲虫類の行動を詳細に観察してみると,遺体自体ではなく,遺体を消費したウジを捕食していた.さらに,アカハラやコマドリのような鳥類(12種)も盛んにウジを捕食していることが観察された.本研究の結果から,高温環境下では,遺体自体は微生物の分解によって利用しにくい資源となるのに対し,ウジという新しい資源が生まれていること,ウジが遺体以上に高質な資源となっていることが示唆された.すなわち,ウジは,遺体の栄養やエネルギーの「変換装置」として機能していた.これらのことから動物遺体における遷移は,従来考えられてきたような初期利用者による遺体自体の化学的・物理的特性の変化を反映したものではなく,利用する資源自体が変化することによって駆動されることが分かった.


日本生態学会