| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-425  (Poster presentation)

安定同位体分析における濃縮係数の種間差の問題を統計的に解決できないか?
Factors affecting interspesific variations in trophic discrimination factors of stable isotope ratios

*平石優美子, 丸山敦(龍谷大学)
*Yumiko Hiraishi, Atsushi Maruyama(Ryukoku Univ.)

炭素・窒素安定同位体比(δ13C・δ15N)は、動物と餌の差分 (濃縮係数;Trophic discrimination factor) が一定であることから、被食・捕食関係の推定に用いられてきた。この濃縮係数は、δ13Cで0〜1‰、δ15Nで3〜4‰とされてきたが、近年では生物種や組織によって異なること、体サイズや餌の種類によって変化することが分かってきた。種、組織、体サイズによって濃縮係数が異なるならば、一般的な濃縮係数を用いての餌の推定は正確でない。野外データからより正確に食性や食物網構造を推定するためには、濃縮係数の違いを理解する必要がある。そこで本研究では、魚類の濃縮係数の種間変異に注目し、各種の栄養段階、最大体長、系統、消化器官の特性が濃縮係数に及ぼす影響を、既存データを解析することで検証した。
まず、濃縮係数が報告されている50魚種について、その栄養段階、最大標準体長、遺伝子配列、胃の有無の情報を文献およびデータベースから収集した。収集データを分析組織および脱脂処理の有無で区別した上で、濃縮係数の予測可能性を検証するため、δ13C・δ15Nの濃縮係数を、最大標準体長、栄養段階、胃の有無で説明する線形モデルで解析した。また、濃縮係数に変異を生み出す要因を探索するため、炭素および窒素の濃縮係数の差を、最大標準体長の差、胃の有無の差、遺伝的距離で説明する線型モデルで解析した。
結果、δ13Cの濃縮係数を予測するモデルでは3つが、δ15Nの濃縮係数を予測するモデルでは2つのみ有意となった。δ13Cの濃縮係数の変異を説明するモデルでは5つが、δ15Nの濃縮係数の変異を説明するモデルでは4つが有意となった。今後、野外の同位体データを解釈する上では、これらのモデルが提示する要因を加味することで、濃縮係数を実験的に求められていない魚種の食性を高精度で推定できることが期待される。一方で、様々な種の濃縮係数をさらに加えることで、より高精度な濃縮係数の予測が可能になると思われる。


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