| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-484  (Poster presentation)

寒風山半自然草原における鱗翅目種組成の解明-草原面積の減少の前後を比較して-
Species composition of Lepidoptera in semi-natural grassland in Kanpuzan:comparsion before and after the decline in grassland area

*上倉優(秋田県立大学)
*Masaru KAMIKURA(Akita Prefectural University)

近年、日本を含む世界各地で半自然草原の面積が急速に減少し、草原性生物の種多様性の減少が危惧されている。秋田県においても男鹿半島に位置する寒風山の半自然草原の面積の減少が報告されている。本研究では、草原面積の減少や管理方法の違いに伴う蛾類種組成の違いを評価するために、植物と密接に関わっている蛾類に注目し、1987年に実施された蛾類調査の記録と比較した。
蛾類の調査は寒風山内において管理状況(樹林地帯・草原地帯・樹林地帯と草原地帯が混在する地帯)が異なる計3地点で実施した。各地点にボックス式のライトトラップを1個ずつ設置し、2018年の5月~10月にかけて月に2回、計12回実施した。1987年時点の調査は1987年の5月~9月にかけて月に1~2回、計6回、寒風山内の草原1地点で実施された。調査後、両年の記録蛾類の種組成の類似度を求め、蛾類の食性を比較した。
蛾類の種数は1987年(397種)から2018年(225種)にかけて約40%減少し、両年の種組成に違いが見られた。蛾類の食草に注目したところ、草原面積の減少により食草が見られなくなった種は確認されなかった。
管理状況の違いでは、3地点間の種組成は類似していた。これは、3地点が近接していたうえ、草原面積も小さかったことから、局所的な管理スケールでは種組成に影響を与えなかったためではないかと考えられる。一方で、10種の草本食性の蛾が草原地帯のみで記録されたことから、草原地帯は少数だが草本食性の蛾の生息地となっている可能性が示唆された。
以上により、草原面積の減少に伴い種数が減少しており、食草の減少とは別の要因が種組成に負の影響を与えている可能性があると考えられた。今後は、寒風山の蛾類の保全のために継続的な管理を行い、草原環境を維持することが重要であると考えられる。


日本生態学会