| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-094  (Poster presentation)

耳石のSr安定同位体比が明らかにした溯河回遊性を失わないダム湖のイトウ
Anadromy in a land-locked Sakhalin taimen population revealed by Sr stable isotope signatures in sagittal otoliths

*福島路生(国立環境研究所), 原田智代(東京大学), 山川茜(国立環境研究所), 飯塚毅(東京大学)
*Michio FUKUSHIMA(Nat. Inst. Env. Stud.), Chiyo Harada(University of Tokyo), Akane Yamakawa(Nat. Inst. Env. Stud.), Tsuyoshi Iizuka(University of Tokyo)

北海道稚内市の水源池である声問川・北辰ダムでは、毎春、ダム放水口に多数の大型のイトウが集結するという奇妙な光景が繰り返されている。イトウ(Parahucho perryi)は絶滅危惧IB類に指定された日本最大のサケ科の希少淡水魚である。発表者らは、1)北辰ダムに流入する河川、2)声問川に注ぐ別の小河川、また3)声問川に隣接する猿払川の3つの河川からイトウの稚魚(1-2歳魚)を合計25匹採集し、耳石に蓄積されたストロンチウムの同位体比(87Sr/86Sr)をコア(中心部)とエッジ(縁辺部)とで測定し、線形判別関数により22匹(88%)のイトウの採集河川を正しく推定できることを明らかにした。さらに声問(3尾)と猿払(2尾)の2つの河川の河口付近で漁師によって混獲されたイトウ成魚を入手し、同じく耳石のSr同位体比を測定した。得られたデータと上で推定した判別関数式とから、これら成魚の生まれ育った河川を推定したところ、声問の海で捕獲されたイトウのうち2尾が北辰ダム上流で生まれたものであることを突き止めた。つまり、北辰ダム貯水池には以前からイトウが生息することが知られていたが、この個体群は完全に隔離(陸封)されたものではなく、ダムからの放水とともにイトウ稚魚が時折下流に降り、さらに海まで達して大型に成長しているのである。春にダム放水口に集結するイトウは、産卵のため母川回帰した北辰ダム生まれのイトウ親魚が、決して到達することのできない貯水池の流入河川に向かう途中、魚道の無いダムによって行く手を阻まれている光景であったと推察される。ダム建設後40年近く経過しても、降海性そして溯河回遊性を失わないダム湖のイトウをどのように保全していくべきかを考えたい。


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