| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-107  (Poster presentation)

気候変動は堅果豊凶性を変えるのか
Decadal changes in masting behavior of oak trees: A resource allocation shift caused by climate change as a possible mechanism

*柴田銃江(森林総研), 正木隆(森林総研), 八木橋勉(森林総研東北支所), 島田卓哉(森林総研), 齊藤隆(北海道大学)
*Mitsue SHIBATA(FFPRI), Takashi MASAKI(FFPRI), Tsutom YAGIHASHI(Tohoku Research Center, FFPRI), Takuya SHIMADA(FFPRI), Takashi SAITOH(FSC, Hokkaido Univ.)

  近年、堅果の豊凶性は10~数10年の時間スケールで大きく変容することが欧州などで報告されている。地球温暖化による気温上昇などが一因とされているものの確証は得られていない。東北地方の北上山地にある中居村ミズナラ試験地においても、種子トラップによる38年間(1980~2017年)の結実観測データをまとめたところ、堅果生産数の増加や豊凶の変動係数の低下がみとめられた。さらに、ウェーブレットモデルと二次対数線形自己回帰モデル(ARモデル)による統計学的解析から、豊凶周期が3~4年から2年へと短周期化していることも明らかになった。
 このような豊凶性年代変化の要因として、気温と余剰生産に着目した。まず、着葉期(6~9月)の月平均気温と堅果生産数の20年移動平均値を比較したところ、両者に高い正の相関があった。また、スライドウインドウ方式で得た20年期間毎のARモデルの2つの係数値(1+a1とa2)は、着葉期の月平均気温を説明変数にした二次式で凹状に変化することがわかった。次に、資源収支モデルに基づき余剰生産量の違いを考慮した繁殖シミュレーションを行い、得られた時系列データをARモデルで解析することにより、余剰生産増加に伴う豊凶短周期化を再現した。この理論モデルの繁殖シミュレーションにおけるARモデル係数の動態は、上記のミズナラ林における実測値の変化パターンと概ね一致していた。これらの結果から、気温上昇に対する樹木の反応は単純ではないが「気温上昇にともなって樹体内の余剰生産が増え、繁殖への資源配分様式が変化する」ことが考えられる。


日本生態学会