| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-130  (Poster presentation)

落葉は葉群光合成を最適化した: 3年間の野外調査より 【B】
Leaf shedding optimizes the photosynthetic rate of the canopy in deciduous woody species 【B】

田中智紀, 黒川千晴, *及川真平(茨城大学)
Tomoki Tanaka, Chiharu Kurokawa, *Shimpei OIKAWA(Ibaraki University)

植物が葉を落とすタイミングは、その植物の適応度と密接に関係すると予測されてきた。しかし、それを支持する実験的証拠はほとんどない。最適理論は、新しい葉の窒素利用効率ε(日光合成速度/窒素濃度)に対する古い葉のεの比(εon比)が、古い葉からの窒素回収率(RN)よりも低くなるとき、古い葉の枯死は窒素損失を伴うものの葉群全体の光合成速度を増加させる、ということを予測した。一年草を用いたポット実験において、貧栄養条件で育成した植物ではこの予測が支持されたが、富栄養条件で育成した植物では支持されなかった。ポットの使用は様々な物理的、化学的、生物的制約が実験結果に影響を与えうる。そこで本研究では、冷温帯の落葉樹林で3年間の野外調査を実施した。窒素可給性が高い植物の代表としてオオバヤシャブシ(窒素固定種)を、窒素可給性が低い植物の代表としてイヌシデ(非窒素固定種)を選んだ。この2種は同じ科に属し同所的に生育する。いずれの種でも、葉の日光合成速度は葉齢と共に低下した。一方、葉の窒素濃度は枯死直前まで大きな変化を示さなかった。そのためεは葉齢と共に低下した。調査期間を通して、いずれの種でもεon比はRNとほぼ等しかった。この結果は、植物が葉を落とすタイミングは葉群光合成速度を最大化するように決定されているという仮説の一般性を支持している。


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