| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-182  (Poster presentation)

両側回遊性洞窟魚の系統進化と種分化メカニズム 【B】
Phyletic evolution and speciation mechanisms of amphidromous cave fish 【B】

*Hirozumi KOBAYASHI(TBRC, Univ. Ryukyus), Atsushi NAGANO(Ryukoku Univ.), Kazunori YAMAHIRA(TBRC, Univ. Ryukyus)

 洞窟生物は,特定の洞窟や狭い地域に分布が限定されるものが多い.しかし,近年熱帯の島嶼域から発見が相次いでいるアンキアライン洞窟生物は,形態的に同一と考えられる種が海を越えて広域に分布することが明らかになりつつある.これらアンキアライン洞窟生物の多くは海と川を行き来する両側回遊性種を近縁種にもつことから,アンキアラインの形態的種は(A)各島に独立に陸封された集団の収斂進化,(B)両側回遊性種の可塑的な形態変化,あるいは(C)両側回遊性種とは生殖的に隔離した回遊性種の存在のいずれかを反映している可能性が考えられる.本研究では,近年太平洋の複数の島嶼から発見されているアンキアライン洞窟性カワアナゴ属魚類(洞窟種)をモデルシステムとして,これらの仮説について検討した.
 ミトコンドリア全塩基配列を用いた系統解析の結果,洞窟種は,地上性の両側回遊種のテンジクカワアナゴ(地上種)とクラスターを形成し,両種はミトゲノムでは区別できないことがわかった.しかし,ゲノムワイドSNPsをはじめとする核ゲノムを用いた系統解析では,両種はそれぞれ単系統群を形成することから,両者間には強い生殖隔離が確立しており,その種分化はごく最近完了したものと考えられた.また,SNPsに基づく集団構造解析では,地上種のみならず,洞窟種においても島間での遺伝的分化は全く認められず,地上種の両側回遊同様,洞窟種も生活史の初期に長距離回遊するステージを有し,島間の遺伝的交流が維持されていると考えられた.こうした「洞窟回遊性」の進化には,仔魚/幼生の能動的な洞窟回帰メカニズムの獲得が不可欠であるが,そうした能動的洞窟回帰は,必然的に地上種との生殖隔離を導くと考えられる.本発表では,そうした「魔法形質」が,洞窟回遊性種を初めとする回遊性生物の種分化に果たした役割について議論する.


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