| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-221  (Poster presentation)

非線形時系列解析を用いた水田生物間相互作用への農薬施用の影響評価の試み
An EDM (empirical dynamic modeling) approach to evaluate the effects of pesticides on the interactions among a rice paddy community

*橋本洸哉, 江口優志, 早坂大亮(近畿大学)
*Koya HASHIMOTO, Yuji EGUCHI, Daisuke HAYASAKA(KINDAI Univ.)

近年、水田景観において農薬施用がトンボ類を始めとする捕食性昆虫を減少させていると指摘されている。捕食性昆虫は水田の上位捕食者であり、水田の生物間相互作用ネットワークにおいて重要な位置を占めると考えられる。そのため、捕食性昆虫は農薬の直接毒性だけでなく、相互作用を介した間接的な影響も受ける可能性が高い。このような農薬の間接影響はそれを媒介する相互作用の強度に依存するため、農薬が相互作用強度に与える影響の解明は重要な課題である。しかし、複雑な野外条件のもとで相互作用強度を観測することはこれまで極めて困難であったため、農薬施用が水田の生物間相互作用に与える影響の理解はほとんど進んでいない。そこで、ここ数年急速に整備の進みつつある手法である「非線形時系列解析」を用いて、農薬施用が水田生物間の相互作用に与える影響の評価を試みた。解析には、2017年に行った水田メソコズム実験のデータを用いた。本実験では、1) 除草剤施用によって水草に依存して生活するイトトンボ類幼生が減少し、水底で生活するトンボ科幼生が増加、2) 殺虫剤施用によって全てのトンボ類幼生が激減したという結果が得られている。解析の結果、トンボ類を含む相互作用については、除草剤施用によってトンボ科幼生が動物プランクトンへ与える正の影響が小さくなった。しかし、その他の相互作用には農薬施用による目立った変化は認められなかった。その他の生物間の相互作用では、殺虫剤施用によって植物プランクトンから動物プランクトンへの正の影響が減少、除草剤施用によって水草からアメンボ類への作用が負に近づく等の変化が認められたものの、全体としては農薬が水田の生物間相互作用の正負と強度に与える影響は小さいことが示された。このことは、農薬施用が生物間相互作用を介してトンボに与える影響は、影響を媒介する生物の密度の変化によって大部分が予測可能であることを示唆している。


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